ニックネーム:キリヤマ隊長
丹沢山塊の知られざる登山道に挑む、丹沢マイナールート探検隊。壮絶なるレポートを冒険家ライター、キリヤマ隊長が語る。

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2012年02月19日(日)
そこの危篤の人、お名前は?
今日は、パーティ登山の話をしよう。
まずは、わたしの父の実話からだ。


--■仲間が危篤状態に、そのとき

父の趣味は、バードウォッチングだ。
鳥がいるところには、近所から、遠くは飛行機で
カナダまで行ってしまう。74歳にして、40リットルの
バックパックを背負い、珍しい鳥が来るところ
どこへでも行く。


(イメージ)

「鳥ごときで、よくそんな遠くまで行けるな」
とわたしがいうと、

「山屋のお前に言われたくない」。

ごもっとも。

さて昨年、父はバードウォッチャー数名の仲間と共に、
立山にある日本一標高の高い温泉(標高 2410 m)に
向かった。いったいどんな鳥がいるのかは分からないが、
スズメではないと思う。

ところが、温泉旅館に着くと夜になって、リーダー格の
男性の体調がおかしくなった。彼は3000m級の山に何度も
登っており、この温泉にも何度も来たことがある。

どうやら高山病のようだ。頭痛と吐き気がひどい。
旅館で酸素吸入の処置を行ったが、回復せず
夜中になって、救急車を呼ぶことになった。


(イメージです)

これは、えらいこっちゃ。
父は、救急車に同乗し、救急病院へ向かった。
病院に着くと、彼は意識不明になる。

すると診察した医師は、
「高山病による肺水腫で危険な状態です。
 至急家族に連絡をしてください」
という。


(イメージです)

まるで、ドラマのような急展開。
でも、これ本当の話。
(こんなことウソを書いてもしょうがないが)


--■家族に連絡をしようとするが

これは大変だ。さっそく家族に連絡を…、
とはいっても、彼の奥様はすでに他界している。
彼は一人暮らのはずだ。そういえば、結婚した
お嬢さんがいると言っていたが、どうやって
連絡するのか。

皆さんならこんなときにどうするだろうか。
そう、携帯電話だ。なんて便利なものがあるんだ。
この時代に生きていてよかった。


(これもイメージ)

こうして父は、彼の携帯電話のアドレス帳を見た。
ところが…、

そこにあるのは名前の一覧のみ。どの人がお嬢さんなのか
分からない。彼のフルネームは知っているが、お嬢さんは
結婚しているので、上の名前が変わっている。
やばい、これじゃわからん。

そこで、アドレス帳を見て、片っ端に電話をしてみた。
すると、何件かかけたのち、実の姉に電話がつながった。

ああ、これで安心。連絡できてよかった。
ところがここで、また問題が。

お姉さんは、
「本当ですか、詐欺かなにかじゃないでしょうね」。
父の話をなかなか信じてくれない。(オーマイ・ガ!)


(こんなイメージ)

オイオイ、こんなときに何いってんだよ、信じろよ。
でも、知らない人からいきなり“弟さんが危篤です”って
電話がかかってきても信じられないよな。

そこで病院の電話の電話番号を知らせて、
そこに電話をかけてもらい、医師と連絡を取り、
やっと信じてもらうことができた。


(よかった、のイメージ)

こうして彼の親族に病院まで至急に来てもらうことができた。
その後、彼は一度は回復するが、残念ながら数日後、
親族に見守られ亡くなった。(ご冥福をお祈りいたします)


--■登山仲間のことを知っているだろうか

さて、父の経験から、学べることがある。
わたしたちは、登山仲間の名前を知っているだろうか
ということだ。

山岳会に入っている人なら知っているだろう。
しかし、インターネットで知り合った方は
ハンドルネームでしか名前を知らないこと
が多いはずだ。

そういうわたしも、本名を教えたことがない。
山友達には、わたしは名前はキリヤマ、顔はベッカムで
通じている。

あなたの携帯電話のアドレス帳には、どの人が家族なのか
分かるようになっているだろうか。緊急連絡先が分かるように
なってるだろうか。

家族の人は、いきなりハンドルネームで「XXXさんが重体」
といわれても、信じてもらえないかもしれない。
奥さんに「それじゃ主人の本名を言ってください」
なんて言われても、名前を知らなかったら、
ますます怪しまれる。


(たしかに怪しい)


わたしは、父の話を聞いて、携帯電話のアドレス帳を
書き換えた。アンヌ隊員とユーレイ隊員は、フルネームの
あとに(妻)(娘)とした。

当然、自宅の電話はフルネーム(オレ様の家)とした。
その他、実家の父、職場の電話番号も分かるように書き換えた。

しかし、前回のブログで書いた、エマージェンシー情報カードを
作成しておけば、携帯電話より確実だ。なにより、充電の必要がない。

そして、できればパーティ登山では、仲間の本名と
連絡先を教え合っておきたい。趣味で付き合っている仲間に、
個人のことを聞きにくいなら、パーティのリーダーは、仲間に
登山届の記載をお願いすればいい。

山屋には、携帯電話より便利なもの、登山届があってよかった。
2012年2月19日 20時30分 | 記事へ | コメント(6) |
| そこの危篤の人、お名前は? |
2012年02月12日(日)
エマージェンシー情報カードを作成せよ!
西丹沢自然教室、Kさんの作っていた、
エマージェンシー情報カードを作成しよう!


(完成品)

まずは、ラミネート加工のできる
「簡単ラミネート(名刺サイズ用)」を購入。
(5枚入り、200円くらい)



次にパソコンで、名刺サイズの文面を作成。
名刺サイズは、91mm×55mm 。



プリントアウトして、裁断する。
パソコンを使わなくても、名刺サイズの枠を
エンピツで書いて、文面は手書きでもOKだ。

そして「簡単ラミネート」で加工する。



よっしゃ!完成だ。
まずは、試作用を作成。



これを、しばらく水につけてみる。
水がしみこまなければ、大丈夫だろう。



一晩、水につけた結果、問題ない。

こうして、正式版を作成。
表面は、自分の情報。
裏面は、家族、職場、実家の連絡先。

アンヌ隊員のカードも作成。

さぁ、後はこれをザックに入れっぱなしに
しておけばOKだ。

これで、登山中に何かあっても、
誰かにこのカードを託すことができる。
また、わたしのザックが半年後に発見されても
身元が分かる。

このカードのことを、山の雑誌などで
ぜひ取り上げて欲しいものだ。

しかし、何よりも一番いいのは、
このカードを使うことがないことだろう。
2012年2月12日 17時26分 | 記事へ | コメント(6) |
| エマージェンシー情報カードを作成せよ! |
2012年02月05日(日)
バリエーションルート(自然教室、Kさんインタビュー 3)
登山道以外の道を好んで歩く人々がいる。彼らは、そういった道を
バリエーションルート(以下、Vルート)と言っている。

Vルートの登山では、地図に実線ではなく、破線で記載されている道、
古地図に記載されている過去の道を好んで歩く。さらに、
地図に道がない山、あるは尾根でも斜面でも、登れるところはどこでも
登るという人も多い。

もちろんわたしも、Vルート派だ。丹沢山塊には、Vルート派が
とても多く、推定で63525人ほどいる、とわたしから言われている。

ブログやホームページでその活動を発表している人もたくさんいるが、
人知れずVルートを愛好している人も多く、わたしにメールや掲示板で、

「山頂にイケメンがいました。キリヤマ隊長でしょうか」
「大きな声で歌っている人が近づいてきましたので、逃げました」
「マイナー探検1号が走っていました。石を投げました」

などと知らせてくれる人も多い。

しかし、いうまでもないことだが、Vルートは危険だ。斜面をヘツるときは、
滑落の危険性があり、尾根をはずして現在地を見失い、山をさまよう危険がある。
また、イノシシ、クマ、野グソをしているおっさんに出合う危険性もある。

そういったVルートを計画している登山届を出した人に、Kさんは
何か注意をするのだろうか。この点を、ズバリ聞いてみた。



--■Vルートは規制されているのか

“Vルートに行く人への規制は原則としてはしません。
 Vルートに行く人は、登山スキルが高い人が多く、装備も地図、
 コンパスなどのほか、場合によってはビバークできる道具を
 持っていると思います。ルートや装備に関しては何もいいません”

Kさんは、Vルートだからといって何か注意をすることはないそうだ。
しかし、Vルートでも一般の登山道でも、その人のレベルによって
無謀と判断すれば、注意をするらしい。

次に、警察署の方は、Vルートについてどのように考えているのか。

わたしは以前、石棚山で活動中の救助隊員の方に、
「最近はインターネットを見て危険なところを歩く人がいる」
と聞いたことがある。Vルート派は警察に危険人物としてマーク
されているのだろうか。

Kさんの答えは明瞭だ。

“警察の人がVルートの人をとがめることはありません。
 昔から丹沢には、沢登り、渓流釣り、山菜摘み、といった目的で
 山に入る人が多い山域です。Vルートの人がいることも、
 よく分かっています”

Vルートの人が事故を起こすこともあるが、件数からすれば
一般の登山者の起こす事故のほうが圧倒的に多く、むしろ
登山届を出さずに無理なルートを計画する一般の登山者の方が
警察にとっては厄介な人物らしい。

西丹沢自然教室に、Vルートの登山届を出すと、叱られるのではないか、
と思っているVルート愛好家もいるかもしれない(わたしがそうだった)。
これからは、安心して登山届を出して欲しい。

それに、Vルートは一般道から比べて圧倒的に歩く人が少ない。
Vルートの人が出した登山届によって、同じ日にそのルートを
歩いた人が遭難者したことがわかった場合、登山届から情報を
訪ねることもできる。

さらに、登山届を出すとKさんから耳寄り情報を聞かせてもらえること
が多い。Kさんに限らず、自然教室の皆さんともっと顔見知りになれば、
いろいろ教えてくれるだろう。

ただ、Kさんがひとつだけ気にしていることがある。それは、
将来Vルートを歩く人が多くなると、一般の登山道から
Vルートへの踏み跡が残りるようになり、一般の登山者が
迷い込んしまうことだ。


“Vルートから一般道に入るときは、踏み跡をつけないように、
 またぐような気持ちで入って欲しいですね。数名で歩いているときは、
 分散して一般道に入るよう配慮してほしいです。これは、沢登りで
 最後のツメから登山道に入るときも同じです”

今はまだVルートを歩く人は少なく、踏み跡が残るような
ことはないが、これからはこういったところも注意したい。

--■Kさんの判断基準

自然教室にバスが到着すると、登山届の提出を
お願いしている自然教室の人を、皆さんは何度も見ているだろう。

Kさんは、登山届を見て危険だと思う人には、必ず声をかけるという。
声をかける基準はなんだろうか。

Kさんはその人が初心者なのか、経験者なのかは、2つのことで
わかるという。

“ありきたりですが、まず靴です。新品の靴を履いている方は
 要注意です。でも、西丹沢だと慣らしで来る人もいますので、
 次にザックの持ち方、体にちゃんとフィットしているかどうかを
 見ます。経験者は、ザックを背負っていても、背負っていない
 ときと同じように自然に歩いています”

たとえ同じような山ガールの恰好をしていても、このひとはまだ山を
歩き始めて片手くらいという人と、この人はクラブに入っていた人だ、
ということがおおよそ分かるそうだ。

“登山届のルートによっては、その人の装備を訪ねることもありますし、
 場合によっては、行くのをやめるように勧めます。例えばよくあるのが、
 お昼くらいに来て、檜洞丸から犬越路まで一周するという人です。
 その人が初心者でさらにヘッドランプを持っていない場合、絶対に
 行くのをやめるように言います”

沢登りでも、Vルートでも、Kさんはその人に合ったレベルの注意を
するので、もしも、Kさんから何か注意されたら必ず気にとめてほしい。




--■登山で重要なスキルとは

最近よく聞く、登山スキルという言葉。登山スキルに必要だと考えられる
ことはさまざまだろう。Kさんは、体力、技術力、判断力を重視している。

“体力は、自分の体に聞けばわかるでしょうし、学生の時に運動部に
 いた方ならもっとわかるでしょう。技術力は、その気になれば3カ月の
 トレーニングで、あっというまに中級になれます。しかし、問題なのは
 判断力です。こればかりは、経験を重ねないと、どんなに詰め込んでも
 5年や10年ではベテランにはなれません”

自然教室に来る人で、意外に多いのが、檜洞丸はどこですか、と聞いてくる
人だそうだ。登山道のアプローチを聞いているのかと思って、説明すると、
本当に何も分かってなく、地図も持っていない。それでも、本人は北アルプスを
登りました、八ヶ岳も登りました、屋久島まで行きました、自分は中級者だ
という。どうやら、ツアー登山を中心に登山をしているらしく、こういった
“自称中級者”は意外に多いという。

“そういった人たちはたくさん山を登っているんでしょう。先ほどの3つの
 スキルで考えますと、体力はある程度あるのでしょうが、地図を持って
 いないということで、地図を読むスキルに欠けています。おそらく、
 道具の選択もクリアーしていないでしょう。判断力に至っては、
 それこそ寒い状態でしょう。でも、その人は自称中級なんです(笑い)”

これは、ツアー登山が悪いというわけではなく、ツアー登山で皆と一緒に
ピークハントを繰り返しても、登山スキルは向上しないということだ。
例えツアー登山であっても、自分で計画を立て、地図を読み、
登山スキルをあげることが大切だ。


--■これからの丹沢に求められること

かつて西丹沢自然教室の他、丹沢のビジターセンターの役割は、
丹沢のすばらしい自然をみんなに伝えることだった。

しかし、これからはそれだけではなく、登山やハイキング以外の人にも
もっと幅広く丹沢に来てほしいと考えている。

たとえば、最近は、ハーネスやロープを使った本格的な沢登りではなく、
ウォーターウォーキングやシャワークライミングという新しい沢の楽しみが
定着してきた(玄倉川、大滝沢など)。また、トレイルランニングを楽しむ
人も増えてきている。山に入るのは、登山だけでなくスポーツとして山に
入る人が多くいる。

ビジターセンターでは、こういった、丹沢の多様性をもっと広めていこうと
新しい丹沢のあり方を模索している。もちろん、Vルート歩く人にも、
もっと利用してもらいたいと考えている。

しばらく前までは、人が入らないほうが自然を守れるといわれてきた。
しかし現在では、人が自然と接したほうが自然を守れることが分かって
きている。

だから、もっと新たな価値観を持った人が丹沢に来てほしい。
そして、それができるところが丹沢の長所だ。

ただ、スポーツ登山をする人は登山届を出さないことが多いようだ。
登山届は必ず出して欲しい。登山でも、沢でも、トレイルランニングでも、
絶対に遭難しないとはいえない。


--■ところでKさんって、どんな人?

Kさんは、いつから山が好きになったのだろうか。

“父が学生時代に山やスキーをやっていましたので、家族旅行でよく
 キャンプに行って登山をしました。小学校のころ友達と丹沢デビュー
 をして、知らない尾根を登って、冒険もしていました。丹沢で
 テント泊もしましたよ”
 (注意:現在は、テント泊はできません)

小学校から山が好きだったKさんが、大人になって選んだ道も山だった。

“わたしは、自然観察が好きで 大学は林学部に進学しました。卒論は
 山形のカモシカの調査。奥多摩と山形をフィールドにして、
 ずっと山に入っていましたよ。調査のメンバーがトラバースできなくて、
 背負ってトラバースしたことも何度かありました。谷底に一緒に落ちた
 こともありまたよ(笑い)。雪尻を踏みぬいてすっ飛ばされたことも
 ありました。学生のころから宮ヶ瀬のビジターセンターで自然観察の
 ボランティアをやっていましたので、丹沢もたくさん歩きました”

現在、Kさんは公益財団法人、神奈川県公園協会に所属している。
この協会に在籍中2007年に念願のヒマラヤ遠征も経験する。
今は、自宅から西丹沢自然教室まで車で2時間かけて通勤しているが
“山に向かうと思うと全然苦になりません”と言う。

Kさんは、山が好きで、山と共に生きている人だ。
その表情には、輝いたものがある。




--■最後にキリヤマから

以上、3回にわたってKさんのインタビューを書いた。

ここに書いたことで、誰かに何かの迷惑がかかるといけないので、
内容に関しては、最大の注意をしたつもりだ。もし、至らない点が
あっても、それはKさんのせいではないし、もちろんキリヤマの男っぷり
とは関係がない。

最後に、わたしからのお願いがある。

それは、Vルート愛好家は、登山届を出して欲しい、ということだ。

Vルート愛好家が何らかの事故で、救助隊のお世話になることもあるだろう。
そのときに、登山届けが出ていないと、警察関係者は、Vルート愛好家
は登山届も出さない、登山スキルの低い者だ、と思われてしまう。
さらに、そういったことが続くと、Vルートを歩くことが、いつのまにか
社会の迷惑になってしまう。

遭難は絶対には避けられないが、登山届は必ず出せる。
ほとんどのVルート愛好家は、登山届を必ず出していると聞く。
もし登山届けを出さないで山に入っている人がいたら、これからは、
できる限り登山届を出して欲しい。

以上が、わたしからのお願いだ。


わたしは、仕事でインタビューや取材をすることが多くある。
仕事はいつもお金のためにやっていることだ。しかしKさんに
インタビューできた時間は本当に楽しかった。Kさんが自分の仕事の
合間に協力して下さったこと、そしてブログに掲載することに
快く承諾してくださったことにとても感謝し、あらためてお礼を申し上げる。

これからも、今までどおりの明るいKさんであってほしいと願ってやまない。


2012年2月5日 20時34分 | 記事へ | コメント(4) |
| バリエーションルート(自然教室、Kさんインタビュー 3) |
2012年01月29日(日)
魅惑の単独登山(自然教室、Kさんインタビュー 2)
単独での登山を好む人は多い。理由は様々あるだろう。

「自分のペースで歩きたい」
「精神を鍛錬したい」
「借金から逃げたい」
「できれば女房から逃げたい」

共通して求めているのは“自由”だろう。

ところで、皆さんは「サバイバル登山」というものをご存じだろうか。
これは、登山家の服部文祥氏が実行している山行スタイルで、
食料を現地調達し、装備を極力廃したプリミティブな登山スタイルだ。

服部氏は、単独登山のあり方について、こう述べている。

“単独中に足の骨を折ったらどうするのかと聞かれる事がある。
 まるで単独行動者が社会の迷惑であるような言い草だ。
 野生動物に「もし、足の骨を折ったら」と聞いたら
 「死ぬしかない、そうならないように気を付けている」
 と答えるだろう”


(服部文祥:「サバイバル登山家(みすず書房)」
http://www.msz.co.jp/book/detail/07220.html

服部氏の山行は、ものすごく究極なスタイルだ。
わたしも探検家のはしくれだが、こんな軟弱では服部氏
に怒られるだろう。

それでは、本当に単独登山は“社会の迷惑”なのか。
単独登山で動けなくなったら“死ぬしかない”のか。

わたしは、単独登山の賛否について書ける立場ではないので、
ここでは、西丹沢自然教室、Kさんのインタビューから
単独登山について考えてみたい。


--■遭難したことをどうやって知らせるのか

携帯電話が通じる場所で、かつ本人に意識があるなら、
110番か119番をするだろう。しかし、圏外だったら、
または本人に意識がない場合はどうなるのだろうか。

Kさんは、単独での遭難予防や対処として、氏名や住所などが書かれた
紙をラミネート加工してザックの中に常に入れている。


(基本情報のほか、実家、弟、友人、職場の電話番号、保険会社も記載)

ケガや病気で動けないときに、これを誰かにわたして下山してくれたら、
こういう人が遭難していることが分かる。

また倒れて意識のないKさんが発見されても、これがあれば
Kさんだということが分かる。さらに、ザックが半年後に下流に
流れ着いたときに、Kさんのザックだということも分かる。

Kさんはヒマラヤ遠征の経験者。おそらくその経験から、
こういった方法を考えたのだろう。

そしてKさんは、登山届を3枚作成する。家族用、届け用、
そしてザックに入れる予備だ。予備は自力で下山できないときに、
誰かに登山届を託すことができる。

もちろん、こういったものを使わずに済むことが望ましいが、
準備しておけば自分だけでなく、救助する多くの人の役に立つ。


--■ネット情報は信じられるのか

単独登山で重要なことは、情報収集だ。

20年前なら、山岳会やガイド本、そして地図が情報源。
そして、現在の情報の収集といえば、インターネットだ。

しかし、ネット情報が間違っていることが意外に多い。

わたしの探検記でも、間違えた記載を指摘されることがある。
指摘を受けて訂正できた個所は、まだいいほうで、
読んだ人が間違えに気がついても、大半はスルーされてしまう。
数年前の探検記を読み返して、間違いに気がつくこともある。

他の人のブログを信じて道迷いしたことのある人もいるだろう。
わたしは、滑落しそうになったこともある。
それでも、わたしは、ブログを書いた人をけっして恨まず、
安易に内容を信じた自分に厳しい戒めを与え、1分間も反省した。

また、ブログでは、ありのままの山行を書かない人もいる。
地形を言葉で説明するのは難しい。そこで、説明不足が生じる。
「行けば分かるから書かなくてもいいか」と考えて書かない。
そのくせ、どうでもいい話題(おにぎりタイム、キリヤマの男っぷり)は
しっかり書く。

写真は現場の難易度を鮮明に撮影することができない。
写真にはリアリティがないので、危険個所のレベルが分からないためだ。

写真でもっとも重要なことだが、危険なところを通過しているときは、
撮影をしている暇がないことだ。そして、帰宅してから写真を見て
ブログを書く。このときに、危険個所の記憶はない。

さらに、Kさんいわく
“山岳雑誌ですら「人を殺すつもりか」と思えるような情報が掲載さ
 れていることもあります”

ネットで簡単に情報が入手できる現在では、その日のルートを先取り
することも可能だ。しかし、その情報は充分ではないことがある。


--■情報が人を殺すこともある

“ブログで丹沢の魅力を伝えたい、と考えることはとても大切です。
 しかし、そのことで遭難を誘発することもあります”

しばらく前の遭難した例だが、沢の上部にある古い鉱山跡で
横穴の入り口のところで遺体が発見された。

その鉱山跡は沢からちょっと登った横穴で、沢登りの人が
歩くところからは見えない場所にある。なぜこんなところに横穴が
あることを知ったのだろうか、と不思議に思ったKさんは、ブログで
検索をして調べてみると、それを紹介したブログにたどり着くことが
できた。(現在は削除されている)

“すごく魅力的に書いてあるんですよ、たしかに鉱山の横穴があれば、
 わたしでも行きたくなりますよ(笑い)”

そのブログでは、そんなに難しくないように書かれていて、上から懸垂下降で
下りてきたと書いてあったらしい。しかし、実際にはその沢の上部に
行くだけでも危険で、さらにちゃんと地図読みができないと、ピンポイントで
そこに下降することはとてもできない。

“魅力を伝えることはとても大切です。それ自体に罪はありません。
 でも、そういった善意が人を殺すこともあります。また、ブログに
 「危ない」と書くと逆に刺激になり、レベルを考えずに行ってしまう
 人もいます”

インターネットの情報はあくまで参考であり、自分で地形図を読み、
自分のレベルを考えて山に入ってほしい、とKさんは言う。



--■単独の沢登り

“あくまで原則ですが、単独の沢登りは無謀です”

ここ数年、単独で沢に入る人が増えているという。
警察や救助隊の話では、沢登りのレベルが下がってきている
という人も少なくないらしい。

単独で沢に入った場合、ビレイ(自己確保)が難しい。
沢で滑落した場合、その結果は悲惨であることは間違いない。

冒険心を持つことは、山の楽しみのひとつだ。冒険心を突き詰めると、
初回でしかも単独のほうが楽しい。しかし、もしも沢で行き詰ってしまい、
装備がなかったら、そこでアウトだ。

“リピートであれば、単独の沢登りもいいかなぁ。でも、
 少なくとも、初めての沢はちゃんと用心してくれよ、といいたいです”


--■単独登山は、人を惹きつけてやまない。

以上、厳しい話も多いが、Kさんから単独の登山について聞いた話だ。
単独の登山について、皆さんの話のネタになれば嬉しい。

先月、山と渓谷社のメールマガジンで単独登山について
アンケートが実施された。単独登山を望んでいても実行できない
意外な理由に「妻の反対」があるらしい。単独登山をしたくても、
できない人も多い。

サバイバル登山家、服部氏の言う“社会の迷惑”にならない山行
にするためにはどうしたらいいのか。

ひとりひとりが向かい合わなければならない問題だろう。


Kさんとの話は、まだ続く。
次回は最終回「バリエーションルート」について語りたい。
2012年1月29日 17時18分 | 記事へ | コメント(2) |
| 魅惑の単独登山(Kさんインタビュー 2) |
2012年01月22日(日)
登山届けは必要か(自然教室、Kさんインタビュー 1)
皆さんは、登山届けを出しているだろうか。

登山届けを必ず出す人、
たまに出す人、
一度も出したことのない人。

山の指南書には、登山届けの必要性が必ず書いてある。
主だった登山道の入口には、登山届けボックスが設置されている。
登山届けの提出は、登山者にとって常識といっていいだろう。

しかし、登山者のほとんどは、登山届けを出さないという。

「危なくないところだから」
「何度も行ったところだから」
「家族に知らせてある」

出さない理由は、いくらでもありそうだ。
かく言う、わたしも、登山届けを必ず出すようになったのは、
昨年からだ。

それでは、本当に登山届けは必要ないのだろうか。

昨年、わたしは西丹沢自然教室の職員のKさんから、一時間ほど
時間をいただき、さまざまな、話を聞くことができた。
その中で、わたしが多く質問したのが、登山届けのことだった。

今回は、Kさんから聞いた話を参考にしながら、
登山届けについて語ろうと思う。




--■もし、我が隊が登山中に遭難したらどうなるのか

わたしとアンヌ隊員がいつものように探検しているときに、
わたしが病気、滑落、転倒。その場で動けなくなった場合、
どうなるのだろうか。Kさんからの話を参考に、考えてみたい。

まずアンヌ隊員は、携帯電話で救助を要請するだろう。
警察はアンヌ隊員に詳細を聞き、それを救助隊に伝え、日中であればわたしの
救助に向かうはずだ。そして、救助隊がわたしの所に到着し、わたしの顔が
多少コワくても、助けてもらえる。

問題は、下山後、事情聴取のときだ。登山届けを出したかどうかをまず
聞かれるだろう。聴取には、いつ、誰が、どこで、どうした、といったいわゆる
5W1Hが必要になる。

登山届けがあれば、事情聴取が短く済む。しかし、登山届けがない場合は、
時間がかかる上に、お小言をいただくことは間違いないだろう。
これは、たとえわたしがイケメンでも同じだ。




--■もし、わたしが単独で登山中に遭難したら

しかし、単独の場合は、少し違ってくる。
夜になっても、わたしが下山しなければ、アンヌ隊員は
自宅から110番をするだろう。登っている山が分かる場合は、
警察はまず登山道の入り口にあるボックスを調べる。

そして、登山届けを発見できれば、確実にその山に入っていることが分かり、
それを救助隊に伝え救助が始まる。救助としては、これが最短だ。

ところが、登山届けがない場合、アンヌ隊員の事情聴取だけでは、
わたしが遭難したかどうか、警察は判断できない。

仮にわたしが、ルートの詳細をアンヌ隊員に伝えておいても、
警察から救助隊への伝達は迅速性が欠ける。
わたしが瀕死の場合、わたしの最後の沢登りは、三途の川になるだろう。




--■遭難しなければ、登山届は不要なのか

遭難しなければ、使われることのない登山届け。実は、意外な使い道がある。

まず、遭難した人を発見できない場合、同じ日に同じルートを歩いた
登山届けがあれば、その人に状況を聞くことができ、捜索の助けになる。

つぎに、登山届けを集計することで、環境の保全や、登山道の整備に
役立つ。ちにみに、西丹沢自然教室に登山届けを出す登山者のおよそ
半数は、檜洞丸に登ることが分かっている。

遭難しないからといって、登山届けが不要になることはない。


(西丹沢自然教室では、月ごとに登山届けを管理している)


--■インターネットでの登山届けについて

現在、インターネットによる登山届けが出せる県がいくつかある。
これからはインターネットで登山届けを出せる県が増えてくるだろう。

しかし、登山届けを紙で出すのと、インターネットで送付するのは、
どちらのほうが救助に役立つのか。

実は、インターネットの場合、個人情報保護法という壁がある。
インターネットで提出された情報は、主に県庁が扱うので、
その情報は簡単に警察、そして救助隊に伝わらない。

かりに、警察本部にインターネット経由で登山届けを出したとしても、
今度は警察内部で情報の処理に時間がかかる。その点、紙の登山届けは、
救助隊が扱える「ナマ」の情報であり、個人情報も外部に漏れることは
まずない。

したがってこれからも、紙の登山届のほうが役立つだろう。
それなら、登山届けを出せない所から登山する場合はどうするのか。

登山届を出せるルートを計画することはもちろんだが、
どうしても出せない場合は、最寄りの駐在所でも提出できる。
神奈川県では警察署への郵送、FAXでも受け付けている。


(Kさんの勧めで、登山届けを提出する人も多い)


--■これからも、登山届けは必ず必要なのか。

多くの登山者が訪れるルートでも、登山届けは必要なのか。
たとえば、シーズン中の大倉尾根、表尾根を歩くパーティに、
登山届けは必要なのか。あるいは、標高100 m 程のハイキングでも
必要なのか。こんな疑問を思った人も多いと思う。

さらに、登山届けは、あくまで救助する者にとって必要な情報だ。
登山者にとっては、助けてくれればそれでいい、という考え方もできるだろう。
(運よく助かればの話だが)

近年は、健康志向、自然志向により、登山も多様化している。
トレールランニング、ツアー登山。または、ライトな感覚の山ガールと
いうジャンルもある。携帯電話の電波が届く範囲も広がっている。
登山届けは、昔ほど重要視されなくなっているかもしれない。

しかし、ひとたび遭難すれば、多くの人が救助のために動く。
救助隊の人は、自分の身の危険もかえりみず救助に向かう。
そのことを考えれば、やはり登山届を提出することが望ましいだろう。

西丹沢自然教室のKさんは、こんなことを言っている。

 “ 登山届は、義務でもルールでもなく、マナー、モラルの問題です。
   もちろん、提出は強制ではありません。でも、気持ちよく山を歩くためにも
   わたしは、登山届の提出をお勧めします ”

登山届けの提出の有無は、その人の山への思いが反映するのかもしれない。



Kさんとの話は、まだ続く。
次回は「単独登山」について語りたい。

2012年1月22日 14時10分 | 記事へ | コメント(4) |
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