ニックネーム:太田たこす
いわゆる一つの同人オタク。現在の活動ジャンルはアニメ・ゲーム・マンガ(「ぱにぽに」など)のパロデマンガと評論・情報系文章本。元コミケスタッフ(館内担当)

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2011年12月25日(日)
当日版権はコミケにそぐわないという話
冬コミ新刊の原稿をやっていてためにすっかり話題に乗り遅れましたが、
11月上旬Twitter上で「コミケに当日(一日)版権を導入するべきか否か」
という感じの話題が盛り上がっていた事がありました。
当時私もちょこちょこっと関連意見をつぶやく事はしましたが、
本格的に議論に参加はしませんでした。
ただその議論(と言うか様々な人たちのつぶやき)を見ていると、
「基本的な知識があまり周知されていないなあ」と強く感じました。

と言いますのもね、
「コミケ・同人誌即売会に当日版権を!」という意見は、
ワンダーフェスティバル(以下ワンフェス)が始まって以降、
過去に何度も言われて、そのたびに否定・拒否されてきた物だったのに、
その歴史を知らない人が多く見受けられたんですね。
もちろん知っている人もいて、解説を試みている人もいましたが、
昔見た(やった)やり取りが繰り返されていたといいますか。
1ツイート140文字という制限があるTwitterの性質上、
どうしても十分な解説にはなっていませんでした。
そこで、ちょっとその辺の事情を出来る限り詳しく解説してみようかと。
尚、ここでは主に「コミックマーケットで導入されない理由」をメインにします。
他のイベントでは事情が異なる可能性もありますので。
(かなりの部分共通しているはずですが、念のため)

なお、かなり長くなっているので覚悟の上でどうぞ。
まずは「当日版権とはなんぞや?」という基本から。
(以下「続きを読む」内で)


☆当日版権とは?
「ワンダーフェスティバル」で実施されている、
イベント当日だけ版権物(二次的著作物に当たるフィギュアなど)を版権元の許諾を受けて頒布可能にする制度。
数ヶ月前に見本を提出して版権元の審査を受ける必要があり、
時間がかかる上に審査結果によっては許可が下りない場合もある。
またそもそも審査に応じない版権元も多い。

参考:Wonder Festivalへの道〜ディーラー参加の方法


☆コミケに当日版権を導入した場合のメリット

・頒布物に著作権法違反の物がなくなるため、
法的、道徳的にクリアな状態が維持され、
そういった点に対する外部からの批判を回避できる。

(ただし「当日のみ」許されたはずの物が、
後日「古物」として流通してしまうなどの問題はある。)
・権利者にきちんとお金が支払われるため、
許可の出たサークルと許可を出した権利者の間ではWIN-WINの関係が成立する。
これは「純粋にファン活動として同人誌を出している人」にとっては、
原作者・版権元の会社を支援する手段になる。


こうしてみると、
「法的にも問題なく大手を振ってパロディ・二次創作ができる!素晴しい!!」
と思われるシステムですし、それを望む声が出てくる理由も判ります。
しかし、現実はそう簡単にはいかないように出来ているようでして……。

☆コミケ・同人誌即売会への応用の問題点
先にデメリットを書き出して、後に解説します。

・作品の多様性が犠牲になる。
(現在コミケにある同人誌の大半が出せなくなる)
・突発コピー誌などは出せない。
・「当日」版権であるため、後日頒布する事が出来ない。
・上記の理由により在庫を抱えるリスクが増大するため、
人気サークルでも発行部数を減らす所が増える事が見込まれる。

(今よりもさらに需要においつかない状態)
・上記のような事例が重なると、同人誌業界全体の規模縮小を招く可能性が高い。

まず前提として、現状「事前の審査」が必須の制度になっており、
版権元(著作権者)に作品の内容を審査してもらう事になるが、
「見る」だけで審査可能な立体造形と、「読む」必要があるマンガ・小説、
「プレイする」必要があるゲームでは審査にかかる手間が大分違うと思われる。
また同人誌を作る人(コミケサークル参加者)はフィギュア製作者(ワンフェスディーラー)よりも圧倒的に多く、
前提条件に非常に大きな差がある。

・作品数がワンフェスと比較にならないほど多く、審査をする側も大変。
・版権元の数も跳ね上がるから審査を申請するのも大変。

これらはコミケの規模だと、
審査をする側も申請する側も事務作業量が膨大になりすぎて実質不可能という事。
版権元とサークルの間を仲介する組織でも新たに作らないと、
とてもではないが対応できないと思われる。
コミケほど大規模のイベントでは試験的な導入もままならないでしょう。
(だからどうしても試してみたいという人は、
もっと小規模なイベントを立ち上げてそちらでやる他はないかなと)

・仮に申請仲介組織が実現して運営側が対応できたとして、
各版権元(主に出版社、ゲーム会社、アニメ制作会社・権利管理団体、
声優などの芸能事務所etc〜)に膨大な数の審査請求が行く事になり、
負担がかかりすぎるため審査に応じてくれないか、
「面倒だから全面的に禁止」となる恐れがある。
・審査に応じてくれた場合でも、エロなど「一般的に公序良俗に反する物は」、
会社の対面上許可が出にくい。(これは現状ワンフェスでもそう)
同人誌の場合はエロに限らず、作品への批判的内容や、
どぎついギャグ作品などもはじかれる可能性が高い。
・また申請から審査を経て許可が出るまで数ヶ月かかるため、
突発コピー誌などは出せない。

これらは『現在コミケで頒布されている物の大半が頒布できなくなる事』を意味します。

・次に、“当日”版権であるため、売り切れずに在庫が出ても“後日”頒布する事が出来ない。
すなわち書店委託や通販が許されない。

これは必然的に今大部数発行している大手サークルも部数を絞るという事で、
同人関連業界(印刷会社等)全体の規模縮小を意味する。
(同人メインの印刷会社、何社かつぶれるでしょうね)
つまり、悪影響を受けるのはサークルばかりではないという事です。
部数が減るのは「読める機会が減る」という事で、読者にとってもマイナスです。

一言で言えば、
「コミケに導入するにはリスクが高すぎ、デメリットが多すぎる」
という事になります。
そもそもコミケの理念・目的の一つに、
「出来る限り様々な表現を受け入れる」と言う旨の物があり、
当日版権のシステムはそれを大きく妨げます。
つまり、「コミケの理念・目的と対立する物である」という事です。
私が思うに、これが導入されない最大の理由でしょう。

参考:コミケの共同代表のお一人筆谷氏のツイート
「なんでもありの世界を維持するのは難しくなる」とおっしゃってますね。
「なんでもあり」がコミケ側の理想の形で、
出来る限りそれに近づける方針なんですよね。

ちなみにサークルが独自に許諾を取った頒布物を作るのは問題ないですし、
(私個人の小さな懸念はありますが)
実際やっている所もすでにあります。
(「ふらんすぱん」さんの『ラグナロクバトルオフライン』など。)

☆最後に
もしこの先世間がどんどん著作権に厳しくなって、
「当日版権を導入しないとパロディ・二次創作同人誌は全滅だ」
という所まで追い詰められたらそうする他はなくなります。
ですが、今はまだそこまでは行っていないでしょう。
(TPPの著作権法違反非親告罪化など、きな臭くなってきてはいますけども)
少なくとも、現時点で自分たちから進んで導入すべき物ではないと思います。
まあたしかにそんな現状は「インモラルだ」との批判は免れませんけども。

ただし、現状の当日版権とは違って、
「お金だけ払えば審査なし・当日のみに限らず頒布許可」
と言うシステムを構築できれば話は変わってきます。
これが実現できれば、
権利者はお金をもらえて、
サークルは大手を振ってパロディ・二次創作が可能になり、
読者にとっても入手が容易(現状維持)という理想的状態に出来るのですけどね。
(まあそうなると「当日版権」という名前ではなくなりますが)
それならば私も導入に賛成ですし、むしろ積極的に後押しします。
版権料支払いの為、
若干コストが増してパロディ同人への参入障壁が高くなりますが、
そう大きな問題にはならないでしょう。
(版権料の額にもよりますが)
私個人もそうですが、お金を版権元に払う事に抵抗はない、
もしくは「簡単に払えるならきっちり払いたい」と言うサークルは結構いますから。
しかし残念ながら、
どうやってそういう方向性に話を持っていけばよいか見当も付きません。
だからどうしても「審査されること・当日のみの許可」
を前提に話をする事になるんですよね。

☆オマケ情報
これはソースが発見できなかったので、
昔人づてに聞いただけの伝聞情報になりますが
ワンフェス当日版権導入の事情についてこんな話が。

フィギュアの場合、
公式におもちゃとして販売されるケースが多々あり、
これがワンフェスなどで販売(頒布)されるアマチュア作成のフィギュアともろに競合してしまうため、
大本の著作権者(版権元)が契約しているおもちゃ会社との関係の手前、
「アマチュアのフィギュアなどに対しても強く出ざるを得ない」
という側面があったのだとか。
またそうなると、各作り手(ディーラー)を個別に訴えるよりも、
頒布しているイベントその物を訴える方が手っ取り早い。
本当にそうなるとまずいと言う事で、
「イベント当日1日のみ」という条件を提示して、
なんとか版権元公認の道筋を作ったという事らしいです。

この辺も「やりすぎなければ概ね放置」される同人誌などとは、
事情が大きく違っていますね。

※2014年7月追記
この記事には補足記事があります。
こちらもあわせてどうぞ。
「当日版権はコミケにそぐわないという話」補足
2011年12月25日 15時30分 | 記事へ | コメント(2) | トラックバック(0) |
| コミケ・同人誌関連 |
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「やりすぎなければ」の本質がオフィシャルが認める商売/利権とのバッティングだと考えると、アマチュアのフィギュアは「そもそも商売/利権とバッティングするので、一種のやりすぎ」と見る議論を採用していきたいです。そっちのほうが綺麗ですから。
#同人でも原作側ビジネスとバッティングの懸念が強いケースについてはオフィシャルからクレーム出たケースがあるようですし。

「コミケに当日版権を導入したらどうなる?」という思考実験には、いくつかの前提があると思ってます。
まさに指摘された通りで、「現状のワンフェスの制度コピー」は山ほど問題があるので統一プロセスとしてはほぼ不可能と考えてます。

同人音楽畑の人にとってはJASRAC絡みの話があるので、版権料支払いのプロセス自体は理解しやすいです。
JASRAC(というか主力となるポップ音楽畑)はカバー/編曲を当たり前のようにお互い様に認める文化があるので、基本的にはJASRAC的には同一性保持権/翻案権のことは気にしないままで複製権処理に応じてくれます。
#で、JASRAC/ポップ音楽の文化圏が自分たちのルールでモノを動かすと、時々「外部」とのトラブルが起きます:PE'Zの大地讃頌騒動とかありましたね。

JASRACはよほどのことがなければ内容を審査せずにOKしてくれますし、生産部数に対応するロイヤリティを請求されますが、ロイヤリティの金額もリーズナブルですし支払いサイトも十分に長いです。
#同人で標準的な日程を想定すると、マスターアップしてからJASRACに許諾申請出すと許諾自体はその場で降りて、請求書が来るのは即売会後。
JASRACがこういうプロセスを実現できているので、同人のターゲットになるようなコンテンツ業界でも原理的に不可能とは思いません。
2011年12月25日(日) 21:13 by 太田たこす
☆あかみさん
音楽方面の人でも判ってない場合が多いのですが、
JASRACが内容を審査せず使用許可をだしているのは、
同一性保持権を含む「著作者人格権」はもっていない為、
それに関わる部分の審査はそもそも出来ないからなんですよ。
翻案権は著作財産権に属するのですが、
こちらは内容を審査していると煩雑になりすぎるからと割り切っているのでしょう。
マンガや小説、アニメなどと違って、
音楽は「エロく改変される」という事はないですし。
「タブー」そっくりのアレンジにするなど、
エッチな物を連想させる改変はありえますが、
それでも18禁になるような事はありえない。
またどんなアレンジをしても、
「この翻案は原曲の価値を大きく傷つける」と判断するのは難しい。
ここは他のコンテンツと大きく違う所です。
(替え歌の場合は話が変わってきますが)

音楽の許諾を受けての利用が比較的容易なのは、
なんだかんだいってJASRACあればこそなんですよね。
しかし、そういった団体をその他のコンテンツにもと言うのは、
一朝一夕には行かないでしょう。
ましてや様々なジャンルがある同人の全てに、
一箇所で対応できる団体は多分無理。
出版だけ、ゲームだけ、映画だけ、TVだけと分かれてしまうでしょうね。
それらが統一された団体を作るには、
よほど強力な企業なり何なりが積極的に動かないと実現しそうにありません。

原理的に不可能ではないというのは同意しますが、
「原理的に不可能ではない」と「可能である」の間には、
とても大きくて深い溝が横たわっていると思います。
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