今回は、景気の後退とデフレについて考えてみることにします。インターネットで調べると参考資料がたくさん出てきますが、市場の状況と統計資料を使って自分なりの理解を深めることにします。
2007年の秋から下降気味になった景気は、2008年9月のリーマン・ブラザース破綻によって急速に悪化しました。米国経済の縮小が輸出の減少につながり、企業収益の低下、設備投資の減少と連なって、個人消費や住宅建設の現象に及んで全面的な不況色が強くなりました。上昇機運にあった景気が世界同時不況の中で急速に下降した結果、供給力に比べて需要が減少し、物価を引き下げ、それが企業業績の悪化や個人所得の減少につながっています。このような需給の差、GDPギャップの拡大はデフレスパイラルを招くというので、神経質になっていますが、2009年11月に政府が月例経済報告で経済情勢について「物価の動向を総合してみると、緩やかなデフレ状況にある。」という報告をしました。それを受けて、政府や日銀に対して積極的なデフレ対策を求める論評が増えています。
統計上では、日本の国内総生産のデフレータは、1995年以降減少傾向が続いていますので、日本はデフレが常態化していると見られます。しかし、最近の景気後退とデフレを結びつけることだけでデフレ問題が解決するかどうかは判りません。デフレの要因はその時期によって異なっていますので、状況を把握するために、1980年以降の国内総生産の変化を、図1の名目暦年国内総生産で見ることにします。
まず、名目国内総生産は1980年から1987年までは平均変化率5.5%で増えています。1987年からは成長率は平均変化率7.3%の増加になり、平成バブルが発生ました。1990年にバブルが崩壊した後も、政府の景気対策などが働いて国内総生産は1997年まで平均変化率1.6%で上昇していました。しかし、1997年7月にアジアの経済危機が発生し、国内では北海道拓殖銀行が11月に破綻したことをきっかけとして金融業の最終調整が始まりました。そのために国内総生産は2003年まで下降線をたどり、2002年頃から2008年までの緩やかな回復につながっています。この期間は「いざなぎ景気」を越える長期の景気上昇だと言われていましたが、その背景には米国でのサブプライム・ローンの提供によるバブルの拡大がありました。しかし、2007年末から米国の金融不安や原油・原材料の高騰などで景気は停滞しはじめ、2008年のリーマン・ショックによって急速な下降を示しています。2009年の国内総生産の年間統計はまだ公表されていませんので、図1では1月から9月までの四半期データを平均して算入していますが、その段階では2008年よりさらに大幅な下降を示しています。
1980年から平成バブルが発生する1987年までは、名目国内総生産がほぼ直線状に拡大していました。これは少し余談になりますが、このような傾向は1972年頃から続いています。直線状であるということは毎年の国内総生産の増加額が一定であるということです。なぜその様になっているのか、何か必然的な根拠があるのか、たまたまそうなっていたのかは判りません。その結果、経済成長率は、分母になる国内生産額が大きくなるにつれて小さくなってきます。1972年から1973年には国内総生産が92.4兆円から112.5兆円に増えましたので成長率は21.8%でしたが、1986年から1987年では335.5兆円から349.8兆円の増加で成長率は5.2%に低下しています。
図1では、1980年から1987年までの経済成長の状態を直線で近似して、それを2007年頃まで外挿して表示しています。これと実際の国内総生産を比較すると、平成バブルの時期には過大な総生産が記録されて直線の上側に大きく膨らんでいることが判ります。1990年にバブルが崩壊した後は実際の国内総生産は徐々に元の直線の方に戻ってきます。ところが、1997年に直線と交差して、その後は横ばい状態になっています。もし日本経済のポテンシャルが元の直線で表す成長線上にあるとするなら、国内総生産の曲線は過剰な総生産を埋め合わせた後は直線上に戻ってくるか、あるいはこの直線と平行に上昇するはずですが、実際には横ばいを続けて成長線に戻れなくなっています。このことから、2000年以降の日本経済がバブル以前の成長路線とは違った路線を進んでいることが判ります。
このような景気の変化とデフレの影響を、さらに詳しく見るために、実質国民総生産とデフレータ変化率をグラフで対比させてみます。
図2の実質暦年国内総生産のグラフを見ると、バブル崩壊後の曲線は名目国内総生産のグラフに比べて成長が大きくなっています。2000年以降は景気が停滞しているのですが、それは名目経済であって、実質経済は成長路線に戻ろうとしていました。2008年9月のリーマン・ショックでその夢は挫折していますが、戦後の日本経済の記録では、このように実質国内総生産が下落したのは、1974年と1997年だけです。1974年は前年のインフレ抑制策の影響であり、今回と様子は異なりますが、1997年と2008年はバブルの終焉による景気の下降と見ることが出来ます。
図3のデフレータの動きを見ると、このような景気の変動とデフレ現象の関係がさらにはっきりとします。平成バブルの時期はインフレが進行しデフレータの前年比変化率が増加しました。その後バブルの崩壊と共にデフレータ変化率は減少していますが、1994年までは正の値を維持していました。しかし、1995年からマイナスの変化になりデフレ状態を示しています。1997年には消費税率の改定により一次的に物価が上昇していますが、その後はさらにデフレ傾向が継続しています。2005年頃からマイナス幅は少しずつ減っていますが、依然としてデフレータの低下は続いています。リーマン・ショックでデフレが進行したというのが一般的な考え方ですが、これはサブプライム・バブルによる価格上昇をはき出しているわけで、2009年の4月以降に急激な物価の下げが起こっています。
このような国民経済計算の観察によると、1980年以降の日本経済は実質ベースでは成長を維持してきましたが、その間に三つのデフレ現象を経験しています。それらは、(1) 平成バブルによって高騰した物価の調整、(2) 2000年以降の継続的な物価の低下、及び(3) 2009年の物価の急落です。この中で最も支配的なものは(2)の長期にわたるデフレの継続であり、最近問題視されている2009年の景気後退は、実質国内総生産の落ち込みが支配的であることが判ります。
註1) 国内総生産に関するグラフは内閣府経済社会総合研究所の国民経済計算の平成12歴年連鎖価格GDP需要項目別時系列表より作成。また、1980年より前の国内総生産に関する資料は平成2年基準の時系列表に準拠している。
註2) 国内総生産の平均変化率はその期間の初年の国内総生産に対する年平均変化率。
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