三船久蔵十段の「空気投げ」だが、当時の動画映像が残っているそうだ。
この映像を見て、「空気投げ」の謎を解明するのに、とても興味深いことに気づいた人がいる。
「空気投げ」を繰り出す前の映像では、互いに組み合ったまま、相手が頻繁に足を払おうとするのを避けるため、ピョンピョン跳びはねてかわしている。妙なことに、三船十段が跳びはねたときは、ふわりと飛び上がってゆっくりと降りてくるように見える。宇宙飛行士が月面で跳びはねているみたいだそうだ。三船十段が跳びはねるときだけ月面ジャンプのように見えるというのは、どうしたことか。
互いに相手の襟と袖を持って組み合っているのだから、三船十段は、つかんだ両手で相手の体を下向きに押さえつけているとしか考えられない。だからゆっくり上がって下りてくる。なぜこんなことをするのか。
人間の体というのは、外から力が働いてきたときには、関連する骨の周囲にある筋肉を緊張させることで骨を補強するという自己防衛システムが備わっている。この場合も、下向きの力をかけられることで、胴体周囲や、両足の骨の周囲の筋肉が、意識しないうちに緊張する。この骨を固めるという緊張を強いられた結果として、「空気投げ」に対応するための微妙な動きが充分できず、ぎこちない動きになって倒されてしまうというのだ。(「武道の達人」保江邦夫)
「不安定な姿勢に導かれた相手は、支えをはずされたとたん、つんのめって倒れてしまう」という「空気投げ」の基本に加えて、足運びを乱すための準備として、三船十段はこんな「隠し技」を使っていたんだ!
足を一歩前に出すという動作一つでも、たくさんの筋肉の連携がうまくいって初めて実現される。下肢や腰の筋肉を順序よく収縮させたり弛緩させたりして動かすのだが、下向きの力によって、すでに多くの筋肉が収縮してしまっていれば、連携がうまくいかなくなる。三船十段は、下向きの力をかけながら、「空気投げ」のタイミングを図っていたのだ。
物理学や力学の研究も精力的にしていたという三船十段だから、こんなところに目をつけることができたのだろうか。それとも長年の稽古で培った勘だろうか。
リング上での私のフットワークがぎこちないのは、下向きの力は働いていないけれど、両足や胴体に妙な緊張があるからなんだろうな。でも、一ついい面も見つけた。まったく力まずにパンチを出すと関節を痛めるんじゃないかと心配してたけど、そんな心配はいらない。こんなにすごい自己防衛システムがあるんだから、パンチが当たったとたん、きっと関節周りの筋肉がキュッと緊張してくれるのだろう。ノリ
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