ニックネーム:阿部

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2013年09月15日(日)
島崎謙治「地域医療ビジョンの考え方と課題」
雑誌「病院」の2013年9月号は「地域医療はこう変わる」という特集を組んでいるが、その中の島崎謙治による論文「地域医療ビジョンの考え方と課題」が面白かったので取り上げたい。島崎は政策研究大学院大学教授である。政策研究大学院大学(http://www.grips.ac.jp/)は港区六本木にある、国立の大学院のみの大学とのことだ。

地域医療ビジョンとは明確な定義のある熟語ではないが、厚生労働省が特定の意味内容を持った言葉として使用している単語である。論文の前半では厚労省がこの語をどのような場面でどのような意味で用いているかを示し、医療政策全体の中での位置づけを説明している。また、社会保障・税の一体改革との関連性についても、社会保障制度改革国民会議の報告書(本論文執筆時点では、まだ案の段階)内での位置付けが説明されている。

この論文で私の興味を引いたのは、後半だ。後半では「地域医療ビジョンは『医療』のビジョンでよいか」と題し、島崎の医療観、社会観を基に医療政策の全体像が提言されている。彼は医療機関の機能分化の推進が最重要課題であることに異存はなく、地域医療ビジョンを策定することにも賛成だとするが、地域医療ビジョンの中味と実効性については問題を感じている。特に「医療」の捉え方が問題だとする。
「医療は医学の社会的適用である」と言われることがあるが、適用すべき社会の姿が人口構造の変容等により一変する以上、医学や医療のあり方自体の再考が迫られるのである。
そして、「生活を支える」という視点に立てば、医療の「視界」(守備範囲)は狭義の医療にとどまらず、保健・介護・福祉・住宅、さらには“まちづくり”まで一挙に広がる。地域包括ケアの推進が強調されているゆえんであるが、留意すべきことは、在宅医療もその本質は地域包括ケアと同じだということである。比愉的に言えば、在宅医療と地域包括ケアは、同じ山を医療の側から眺めるか、ケアの側から眺めるかの違いでしかない。(692ページ)

私なりに言い換えれば、地域医療ビジョンは地域「生活」ビジョンでなければならないということだろう。狭義の医療だけを考えても役に立つものはできない。介護・福祉・生活が一体となって患者・障害者ひいては地域住民全体の生活の質(QOL)を支えるからだ。この島崎の主張には賛成である。私は以前から医療を限定的に考えたいと言ってきたが、これは「病院が中心となって行なう医療の範囲を限定したい」という意味であって、病気を持った人々を支える(治療する)ということを考えた場合に、医療だけが充実してもだめで、介護・福祉のみならず住宅や都市計画も併せて考えて行かねばならないと思っている。私の主張と島崎の主張は完全に両立するものである。

島崎は、医療と介護・福祉が連動しない現状を指摘する。
筆者は47都道府県すべての医療計画を詳細に検討したわけではないが、約半分の医療計画には目を通した。その印象を率直に述べれば、一部を除き大半はペーパープランにとどまっている。とりわけ在宅医療や地域包括ケアに関する記述は貧弱であり、市町村と協議を積み重ねた形跡がほとんどみられない。(692ページ)

その理由として島崎は、「医療は都道府県、介護・福祉は市町村の所管」という権限配分の下で、医療と介護・福祉が重なり合う領域の責任・権限の整理がうまくついておらず、「責任の空白地帯」が生じているのみならず、都道府県と市町村の協働が必要不可欠だという認識が欠落していることを挙げる。
この問題はいわば「制度的な問題」であり、連携の強化といった言葉で暖味にすることは適当ではない。また、医療計画において在宅医療も5疾病5事業と同様に位置づけるといったことで片付く問題ではない。(692ページ)

この後で彼は具体的な提言を述べ、老人保健施設や特別養護老人ホームなどの介護保険施設の再編についても言及している。そして彼は「医療計画で医療機関の機能分化の望ましい体系図を描いたとしても、診療報酬以外にその推進手段がなく『絵に描いた餅』となっているのが実状(693ページ)」であるとして、都道府県ごとに「医療・介護・住宅整備ファンド」(仮称)を設けることを提唱する。

では、私はどう考えるか。病院に棲む医療者としては、提供すべき医療を政府から指示されたり、診療報酬で誘導されたりすることを好まないと言うのが本音である。「患者中心」の医療でありたい、患者の要求に応えたいと思っている。しかし、それで医療が成り立つためにはモンスターペーシェントが跋扈している社会ではだめで、人々が「健全な諦観」を持つ社会で無ければならない。どんな医療が受けられ、どんな医療が受けられないのかを社会全体で議論して決定し、学校で家庭で教育して受け継ぎ、改良して行くという姿が理想だと思っている。

2013-09-15 23:29 | 記事へ | コメント(0) | トラックバック(0) |
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