2011年03月24日(木)
この状況下で、懲りない連中(5)
今回の地震や原発事故では各種の専門家がマスメディアを賑わせた。いや専門家以外、専門外のことを口にする「専門家」も大活躍していた。

佐々淳行氏「迅速な要請すべきだった、政府の統治能力欠如」 原発放水
佐々淳行元内閣安全保障室長の話

 「東京消防庁は毒ガスや放射線にも対応できる高圧放水車や化学防護車を持っていて、陸上自衛隊や警視庁よりも優れた性能を備えている。なぜ、政府は真っ先に東京消防庁に要請しなかったのか。危機管理能力がゼロとしか言えない。またカナダには高性能な化学消防艇があるので、世界各国に協力を呼び掛けて日本へ集結させるべきだ。これは危機管理の問題でなく、政府に統治能力が欠如している『管理危機』の問題だ」
東京消防庁ハイパーレスキューには最初に放水の依頼が出ていた。それが水素爆発の発生によって状況が変化し、いったん引き返してもらったのだ。

 ハイパーレスキューの化学機動中隊と陸自の中央特殊武器防護隊のどちらが優れているか比較しても意味がない。なぜ警視庁機動隊の高圧放水車や自衛隊の破壊機救難消防車が投入されたかと言うと、遠隔放水銃によって車外に出ることなく建屋に放水できるからである。

 陸自CH-47や警視庁高圧放水車、自衛隊消防車による放水活動があったからこそ、ハイパーレスキューが限られた装備で活動し、車外で作業する必要のある高圧放水塔車やスーパーポンパー、コンクリート圧送機が使えるようになったともいえる。

 結果だけを見て、「最初からこうすればよかった」と文句を垂れるのは簡単だ。


 カナダの高性能化学消防艇?

 それを誰が操作するのだろう?東電が米軍から借り受けた消防車のように、東電職員に訓練させて操船から放水までさせるのか?海技免状をもった東電職員はどれだけいるのか?そもそもカナダから太平洋を渡って日本まで持ってくるのにどれだけ待てばいいのだろう?それ以前に、そのフネは外洋航行能力があるのか?

カナダ沿岸警備隊の巡視船。高い砕氷能力と放水能力を備える航洋救難曳船型。
佐々氏が言っている「高性能消防艇」がこれをさしているのかは不明。


そもそも高性能消防艇が必要なら、わざわざ海外から引っ張ってくる必要はない。

日本の、海上保安庁にも世界最高水準の消防船が存在するのだから。




FL(消防船)型巡視船「ひりゆう」である。同船は東北・太平洋沿岸大地震によって炎上した千葉のコンビナート消火活動で活躍している。

関連エントリ:「ひりゆう」火の海の中での消火活動




たまたま、J-ships(イカロス出版)の最新号ではこの「ひりゆう」の特集記事が組まれていた。

J-SHIPS ジェイ・シップス 2011 vol.43

それを読めば、どれだけ高い能力があるか分かるだろう。ポンプ車と放水車を接続しなくても、この1隻だけで海水を放水することが可能だ。

また、同記事では「ひりゆう」とともに機動防除隊も活動している。同隊は油流出だけでなくNBC災害に対応できるよう、HRの化学機動中隊や陸自特殊武器防護隊のような防護服を備えている。PSI演習で見られたように特殊救難隊や特殊警備隊にも同様の装備がある。

「ひりゆう」以外にも旧「ひりゆう」型が4隻ある。もっともこれらは性能的には「ひりゆう」に劣るし、新「ひりゆう」も含めて、持ち場を離れて現地に行ってもいいのか、そもそも現地まで安全に航行できるのか、という問題もある。

しかし、消防船以外にも高性能な高圧放水銃を備える巡視船艇は多い。



さらに、海上保安庁は各地の在日米海軍基地に放射能調査艇を配備している(もっとも、これらは調査測定が出来るだけで、何の防護設備もないのだが)。



放射能調査艇「さいかい」の業務紹介
放射能調査船を公開 原子力空母配備を前に海保

これを同行させれば、放水塔車とポンプ車の接続作業で放射線量を監視する役目を担った化学機動中隊と同様の任務を負わせることも出来ただろう。

追記:海保の放射能調査艇は文部科学省の予算で建造され、調査時に文科省の担当官も同乗するのだが、今回の原発事故に対する放射線調査には東大海洋研究所からJAMSTECに移管された「白鳳丸」が使われた。

福島第1原発:文科省、研究船を派遣 海上の放射線量調査
 東京電力福島第1原発近くの海水から国の安全基準を超える放射性物質が検出されたことを受け、文部科学省は22日、付近の海水の放射性物質や海上の放射線量を調査するため、学術研究船「白鳳丸」を現地に派遣した。23日に福島県沖約30キロの海上の8カ所で海水などを採取し、24日に分析結果を発表する。
より広範囲かつ詳細な海洋調査が必要なためだろう。


では、なぜそうしなかったのか。

それは、原発周辺、特に海側の状況を見れば分かる。

コンテナ、パイプライン破損=地震2時間後の福島原発−国交省映像
津波到達直後の福島原発の模様を初公開 東北整備局



1号機から4号機が並ぶ前には防波堤があり、さらにその奥には取水路がある。



そして原子炉建屋周辺には各種設備があった。ただでさえ海上から建屋までぎりぎり接近するのは難しいだろう。放水は距離があれば拡散し風で流され効果が薄れてしまう。


爆発した建屋に放水が届いたとしても海側にはその建屋の骨組みや構造物が依然として残っている。保管プールや格納容器などに効果的に放水できたかどうかは疑問だ。



その上、津波で防波堤や周辺設備が破壊され、上からは見えない海面下にはどれだけ残骸が広がっているのかも分からない。



津波に襲われた港湾を安全に航行できるようにするにはどれだけ時間が掛かるか・・・それは海保と国交省が揉めたことでも分かる。陸地でも周辺の残骸で消防車やポンプ車を入れるのにも苦労したのだ。自衛隊がNBC対策が施された74式戦車のドーザーブレードで撤去しようとしたほどである。もし護岸周辺の啓開作業を行うとすれば、誰がそのリスクを負うのだろうか?

誰かがそのリスクを顧みず、現地で啓開作業をしたとしても、それは完璧だとはいえないだろう。そこでもし消防船を入れて座礁・擱坐した場合、乗員の救出はどうすればいい?陸地と違って走って逃げるわけにも行かない。泳ぐのも当然、無理だ。


おそらく、高い放水能力を持つ海上保安庁も、放射性物質に対し高い防護性能(護衛艦を含め軍艦には核兵器使用時に備えて船体に除染装置や外気の侵入を遮断する設備が備えられている)を持つ海上自衛隊も蚊帳の外で悔しい思いをしているだろう。

しかし、投入するのもされていないのも事情があるのだ。外からあれやこれやと言うのは簡単である(それはこのブログに対しても言えることなのだが・・・)。

あれを持ってくればいい、などと簡単に言うのは現場で命を削っている人々や能力がありながら手出しできず見守ることしか出来ない人々に対する侮辱である。
2011年3月24日 10時25分 | 記事へ | コメント(1) | トラックバック(0) |
| 東北地方太平洋沖地震・東日本大震災・福島第一原発事故 / 海上保安庁 / 佐々淳行 |
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2011年03月24日(木) 13:03 by 元海洋少年団員
私が憶測しているだけですが、佐々氏は、消防用飛行艇(カナディアCL-215)のことを指していた可能性があります。
陸自のCH-47による放水を見て思いついたのかも知れませんね。
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