【新刊紹介】海上保安庁進化論―海洋国家日本のポリスシーパワー―
やっと今回、先日頂いた本の紹介をさせていただきます。
海上保安庁進化論 海洋国家日本のポリスシーパワー
編著者 海洋・東アジア研究会
監修 冨賀見栄一(元海上保安庁警備救難監)
発行 シーズ・プランニング
発売 星雲社
ISBN 978-4-434-13187-5
定価(本体1500円+税)
この本の制作にも関わっているシーズ・プランニングの岩尾さんから紹介されたのですが、その際にプロローグや目次のデータを頂いているので、ここに掲載します。なにせ、Amazonやその他の電子書店にも内容紹介がないので・・・
プロローグ(一部)
日本は海洋民族国家
東アジアにおける海洋を巡る最近の動き
海洋基本法で海洋国家は蘇るか?
日本のポリスシーパワーから何かが見える!!
海洋・東アジア研究会は二〇〇八年四月に発足した小さな研究会であるが、毎月一回勉強会を開催し、海洋国家とは何か? 日本は本当に海洋国家なのか? この東アジア周辺海域で一体何が起っているのか? 日本は海洋基本法を議員立法したが、海洋国家として再認識する意義は何処にあるのか? など雲を掴むような話を酒の肴に議論を続けている。
その議論においては、東アジア海域で発生した事件・事故が常に隣国二国間で外交問題化していることと、海上保安庁の活動が話題の中心になることが多い。海上保安庁は、東アジア地域の海洋を巡る動きを最も敏感に感じ取っているからである。
そこで、東アジア海域で今何が起っているのか、今後何が起こるのかを見極めるには、海上保安庁を見ていくのが最良だと考えた。海上保安庁の最近の動きを追跡するとともに、「ポリスシーパワー」という言葉をキーワードに、調査・研究した成果を、今回レポートとして取りまとめ発表することとした。 プロローグの各項目や内容からも分かるとおり、この本は日本の海洋政策を海上保安庁を中心に論じたものです。
東シナ海や日本海での摩擦や工作船事件の発生により、近年政治的にも国民意識としても海洋権益などが安全保障の観点から注目されることが増えてきました。しかし、それらを論じた本の多くは国際関係・国際政治的観点や中国軍と自衛隊の比較などの軍事的視点で書かれています。日本の海洋政策の中心的存在であり最前線である海上保安庁に関しては、僅かでも触れられればいいほうで、ほとんどが存在しないかのように無視されるか誤った記述が載せられるという有様。それらは政治家・評論家の間で海上保安庁が全く顧みられなかったことの証左でありました。
しかし、日本では「工作船」問題や「海猿」作品程度しか認識されてない海上保安庁も、海洋を舞台にした国際社会では大きなプレイヤーとなりうる、いや、なっているのです。この本はそういった大きな観点で海上保安庁を論じているところに、今までの海洋安全保障・海上保安庁関連書籍と異なる特色があるのです。
引き続き、目次を紹介します。
目 次
プロローグ
1 海洋を巡る日本社会の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1 日本と外国との接点としての海
2 海上輸送は日本の生命線
3 海上輸送の安全と海洋権益確保のために
2 今、海洋東アジアで何が起こっているか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1 東アジアとは
2 激動期の海洋東アジア
3 海域別の衝突・対立事例
4 国際的に激化する漁業問題
5 北朝鮮工作船捕捉(九州南西海域不審船事案への対応)
6 何故、激動する? 海洋東アジア
コラム「海賊・海上武装強盗」問題
3 ポリスシーパワーの本質・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1 シーパワーとは何か?
2 海軍力から海上警察力へシフト
3 日本のポリスシーパワーの誕生
4 領海警備から見えてくるポリスシーパワーの正体
5 ポリスシーパワー武器論
6 ついに見た‼ 日本のポリスシーパワー
コラム ポリスシーパワーに対する国民の意見
4 新しい安全保障と海上保安庁・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1 海は「国際法」が支配している
2 新しい安全保障に対応する海上保安庁
3 海上保安庁の新たなる役割
4 外交力としてのポリスシーパワー
5 国際的実務者チャネルの必要性
検証 海上保安庁の国際的業務の動き
5 組織的に進化を続ける海上保安庁・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1 自己改革を続けて“贅肉の少ない組織へ”
2 巡視船艇、航空機等の緊急整備
3 変化を恐れない海上保安庁の組織改革
4 海上保安庁が仕掛ける新しい灯台
5 海上保安行政を支える法制度の動き
6 海上保安インテリジェンス 新たなる活動・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1 正常がわかれば、異常がわかる
2 日本の政府情報会議の動き
3 インテリジェンス活動とは
4 海上保安庁のインテリジェンス組織
5 これが海上インテリジェンス活動だ
6 海上保安庁の情報収集等の能力
7 東アジア諸国の海洋政策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1 古典的な海洋国家と海軍
2 現代国家の海洋進出と二つの不安定要素
3 東アジア主要国・地域の海洋政策の現状
4 日本の海洋政策
エピローグ
参考資料
第1章の「海洋をめぐる日本社会の現状」では日本の置かれた状況が分かりやすく解説されています。EEZを最初に触れていますが、大きく扱っているのは、食料にしろ製品原材料にしろ輸入に依存していることや、それを支える海運の状態(日本人船員や日本籍船の減少)を説明。最後に海上保安庁と海上自衛隊についても書いています。以下にその一部を引用します。
両者は国民から見れば、日本政府の船が活動しているという点において混同されがちだが、法的にも実質的にも位置づけは異なっている。
それを端的にあらわしているのが海上保安庁法二十五条で、ここは解釈上の注意として「この法律のいかなる規定も海上保安庁又はその職員が軍隊として組織され、訓練され、又は軍隊の機能を営むことが認めるものとこれを解釈してはならない」とある。海上保安大学校の廣瀬肇名誉教授によると二十五条は、アメリカのコーストガードを手本として作られた海上保安庁が、創設にあたり、戦勝国のソ連やオーストラリアから、再軍備、あるいは海軍の再建ではないかと猜疑の目を向けられた際、身の潔白を証明するために定められた条文であるとのことである。創設当時、海軍は存在しなかったものの、法的に群と警察組織は分離するという形をとったのである。
海上自衛隊は憲法上の問題もあるため、軍という位置づけではないが、シーパワーとしては軍に近い組織であり、外交、海上保安庁を含む全ての手段を尽くしても対応できないような非常時の切り札としての存在ともいえる。
具体的には、他国の潜水艦が潜航して領海内へ侵入を図った場合(国際法上、潜水艦が他国の領海内で潜航することは認められておらず、浮上して一般船舶同様に航行しなければならない)、潜水艦の探知を海上保安庁ではできないので、海上自衛隊の出番となる。二〇〇四年一一月の中国の潜水艦による領海侵犯事件は、その一例である。しかし、平時やテロへの一義的な対処としては、海上保安庁が前面に出て対応することになる。不審船事案の場合でも、海上保安庁が対処しきれなくなって始めて海上自衛隊の海上警備行動といった形をとることになったのである。 海上保安庁法25条を組織や行為を直接規制・禁止するものではなく解釈規定だと明確に説明しています。同様の説明は以前のこのブログの記事(※、※※)でもおこなってきましたが、ここで一般の方でも容易に確認できるはっきりとしたソースとしてこの本を示すことができます。
海上警備行動が発令され、海上自衛隊の護衛艦がソマリア沖に派遣されたことによって一般社会からも注目された「海賊」問題ですが、この本では章内ではなく「コラム」として扱っています。一見すると小さい扱いですが、実際はそうではありません。海賊対策は海上保安庁の業務の一つとして一体化しているので、各章でも扱われています。そのため、個別の章立てになっていないだけなのです。直後の第3章「海軍力から海上警察力へシフト」という項目でも、早速「海賊」に関した説明が出てきます。
(「海賊は人類共通の敵」というルールに関して)
ここで重要なのは「敵」という言葉である。当時、海賊行為は普通の海上犯罪ではなく、その取締りに際しては戦闘行為、交戦権に準じた取り扱いをしてもよいと考えられていた。犯罪の取締りであれば、厳格に法律に基づいて処分しなければならないが、海賊を「敵」と見立てた場合は、刑事法令の執行ではなく、交戦法規に基づいて武器を用い、捕獲したり、撃沈してしまうことも許された。したがって海賊の取り締まりは海軍が交戦権の行使として行うという思考と仕組みが生まれ、海上警察権は、海軍力によって行使されてきたのである。しかし、時代とともに、さまざまな資源(コーヒー、ゴム、小麦、金、銀等の食糧、農産物、鉱山物等)の海上輸送が大量に行われたり、漁業活動が活発に行われるなど海洋利用が進んでくると、海上での密輸入の不法取引きや、密航といった新しいタイプの海上犯罪が増えてきた。こうなってくると海賊の取締りのように、自国の船であろうと他国の船であろうと「人類の敵」として海上犯罪を犯す船を発見した国が、海上警察権を行使するという単純な権力行使では、その違反船の所属する国(旗国)との間で問題が生じるようになってきた。そこで海賊の取締とは区別して、海の秩序を害する海上犯罪が行われたときは、取調べについては見つけた国が行うが、裁判は違反船の旗国にやらせるという海上犯罪取締についての国際条約が生まれたのである。
このような経緯によって現在では、海の秩序維持は本来の海軍の手を離れ、海上保安という犯罪取締りのための警察機関が担当するようになってきた。
この後も、山本草二氏(国際海洋法裁判所元判事)の講演から「19世紀以降の海上警察権行使が海軍力から文民に移行していった」という説明を引用しています。自分はさらに、以前の海賊行為が国家を背景とした私掠船によって行われていたことや、国家の統治機構が複雑化していったことも付け加えたいと思います。
この本では「ポリスシーパワー」という新しい言葉を使って、海上保安庁の海上警察権行使・法執行能力を説明しています。そのなかの「ポリスシーパワー武器論」に興味深い記述があります。 あまり知られていないことであるが、海上保安官は正当防衛、緊急避難等の場合、けん銃を撃つことができるが、法律で武器の使用を認められているのは、海上保安官個人ということである。武器の使用は、あくまでも現場で海上保安官が個人の判断で行ない、その結果に対し、保安官個人がその状況を立証し、結果責任を負う。
その判断はよく海上保安官が刑務所の狭い塀の上を走りながら、犯人を制圧するためにけん銃を使用するという状況にたとえられる。けん銃を使用したとしても、その刑務所の内側に落ちず、その外側に落ちる、すなわち、法律的責任を問われない適正な法執行を行うことが要求されるのである。 海上保安庁の武器使用といえば巡視船艇の機関銃砲ばかりが注目されますが、警察官と同様に法執行官としてけん銃を使った実力行使を行うこともあります。その実力行使=武器使用が法律上どのように認められ解釈されているか、説明する文章は一般書において初めてではないでしょうか。この厳しい判断は戦時における武器使用よりも厳しいものが求められると締めくくっています。また、海保の巡視船艇が装備する機関銃砲などの大型武器は、けん銃などと違い「船対船」という関係において効果的な使用を想定していると説明しています。また警察機関と軍事機関の武器使用に関して廣瀬肇氏の講演会を元にした図表を掲載しています。
本誌では縦に並んでいましたがサイト掲載用に横並びに加工しています。もちろん左がミリタリーシーパワー(ネイビー・海上自衛隊)、右がポリスシーパワー(コーストガード・海上保安庁)です。また、ポリスシーパワーの実際の行使例として工作船事件が例示されています。
次の第4章「新しい安全保障と海上保安庁」では、海上保安庁の新たなる役割、特に国際戦略について解説しています。ここでも「海賊対策」が大きく扱われ「検証」においては海賊対策会議やReCAAP・ISCについても説明されています。また、海上保安庁の呼びかけで始まった北太平洋海上保安フォーラムだけでなく、米コーストガードガ中心となって開催された北大西洋海上保安フォーラムにも触れています。そして、注目すべき点は最近報じられたミクロネシア3ヵ国海上保安庁について詳しい記述があることです。以下に引用します。 一方、南太平洋統一コーストガード構想も浮上している。
二〇〇八年一一月、ミクロネシア三国(マーシャル諸島共和国、ミクロネシア連邦、パラオ共和国)の大統領は一一月十九、二〇日の両日、ミクロネシア連邦の首都ポナペで首脳会議を開き三国共同のコーストガード設立に向けた共同宣言を採択、笹川平和財団と日本財団に支援を要請した。
日本財団など民間団体では、具体的な支援策を協議しており、ミクロネシア三国、米コーストガード、豪海軍、日本の海上保安庁関係者などを含めた「ミクロネシア三国海上保安庁設立支援委員会」を立ち上げた。通信施設、訓練施設の整備などハード面のほか人材育成が柱となる。
特に人材育成では海上保安大学校(呉市)に協力を求め、それぞれの国の幹部職員を育成するほか、現地に訓練施設を新設、日本から指導員を派遣して即戦力を養成し、米国や豪州に全面依存する海上保安業務の一角をミクロネシア三国が自前で担える態勢の確立を目指している。 他にも多国間関係としてPSI演習、二国間関係として露中韓印との連携訓練が挙げられ、東南アジア各国への支援についても述べています。
第5章では海保自身、組織そのものについて解説をしています。各項目タイトルが「自己改革」とか「変化を恐れない」とか、褒め過ぎというか自画自賛っぽく感じる面もあるんですがw ただ、確かに「贅肉の少ない」組織ではあるんでしょうけど・・・治安防災・危機管理組織としては、「贅肉」とは言いませんが「余裕」を増やして組織の「冗長性」を持ったほうがいいのではないかと思います。一歩間違えば「ガリガリ」に痩せ細ることにもなりかねないんですから・・・。
もちろんそのことはこの本でも十分認識しているようで、今後整備される新造船艇・航空機は代替であって増勢ではなく、増え続ける事案に関しては更なる効率化が必要としています。
面白いのは、これらの船艇航空機整備が外部からどのように見られているかについても触れている点で、「アジア三国志・中国・インド・日本の大戦略」(著ビル・エモット 日経新聞出版)などが挙げられています。
もっともこの「アジア三国志〜」も別の論文を元に海保について述べているのですが。その元になっている論文とはMITのリチャード・J・サミュエルズ氏のもので、このブログでも以前紹介しました。実は、このリチャード・サミュエルズ教授の論文を非公開コメント経由で連絡された方から頂きました(その節はありがとうございます)。自分の英語力が乏しいものですから読んで記事に生かすことが未だできていませんが、概要については東京財団の書評コーナーで知ることができます。興味のある方はそちらでどうぞ。
次の項目に付けられたサブタイトルは「海上保安庁が仕掛ける新しい灯台」。自分はてっきり「沿岸域監視・支援システム」のことについて書いてあるのかと期待していましたが、違ったようです。ちなみに、「沿岸域監視・支援システム」というのは不審船事件の後に浮上した構想で、無人化された灯台にカメラや対水上レーダーを装備させて監視・情報収集の拠点とする構想です。
2000/02/08 「灯台 再び情報拠点に」 (日本経済新聞 朝刊より) ハイテク装置で情報拠点としての灯台を復活――。海上保安庁は現在、主に船の陸上認識指標として利用させている灯台に遠隔監視カメラやレーダーなどを設置し、船舶の監視や情報収集の拠点として活用していく方針を決めた。危険物を積んだ船や不審船に目を光らせるほか、気象などの情報は携帯電話などを通じて沿岸を航行する船やレジャー客にも提供していく。同庁はこうした施設整備で無人化とともに衰退した灯台の監視・情報収集機能をよみがえらせたいとしている。
同庁が検討を進めているのは「沿岸域監視・支援システム構想」。全国に約620基ある沿岸灯台に、船舶の動静を監視する監視カメラや、風速、高波、流量など気象庁や海象を自動観測するレーダーを設置。収集した情報を地図など画像も受信できる次世代携帯電話などで、船舶だけでなく、釣りやダイビングなどレジャー愛好家に提供していく計画だ。
また現在、東京湾など6ヵ所ある海上交通センターで行っている船舶への情報提供や航行管制、大規模灯台だけで実施している気象情報の船舶への通報などの業務を各地の灯台にも拡充。船舶の種類や船名、トン数などで船舶を自動識別するシステム(AIS)を灯台にも設置し、船舶のリアルタイムの位置情報と突き合わせながら船舶を監視する方向で検討している。
灯台はかつて船舶動静の監視業務を担当していたが無人化が進んで監視業務は衰退。現在は主に船舶が陸地や方向を認識する航海指標として利用されている。
しかし、海難事故の8割が5`以内の沿岸で発生しているといわれ、近年は密輸密航の増加やロシアタンカー「ナホトカ」号の重油流出事故(1997年1月)、不審船の日本領海侵犯(99年3月)など、沿岸監視の重要性を示唆する事態が多発している。
このため、海上保安庁は灯台の監視・情報収集拠点としての機能を見直していくことにした。同庁は「歴史的建築としての価値や風光明美な立地から灯台が観光名所として活用される例も増えている。高台に立つなどの"地の利"を生かして、多目的な活用を目指したい」と話している。 実際にこの箇所で扱われていたのは魚釣島灯台と沖ノ鳥島灯台。「新しい」というのは技術的・機能的にということではなく、灯台が「政府全体の判断」で維持・運用するということになった政治的・政策的背景を指しています。
次に海上保安庁法について解説しています。面白い記述もあるので一部引用します。まず海上保安庁が所管する11の法律(一部共管含む)を列記しています。 以上、一一の法律の中で、もっとも中心的な法律は、その法律名称が示すとおり「海上保安庁法」であるが、この法律を見てみると非常にユニークな法律であることがわかる。海上保安庁の組織のあり方を規定した条文と海上保安業務を行う海上保安官の権限、すなわち海上での警備とか取り締まり権限を規定した条文が一つの法律に混在している。日本における法律の普通の組み立てでは、組織に関する事項については、たとえば外務省設置法などとして、組織に関する法律を別立てにしている。権限等についても、警察官職務執行法などとし、やはり別立ての法律にするのが普通の立法である。
これから考えると海上保安庁法は、組織法と執行法(作用法)が一つの法律で定められており、日本では非常にユニークな法律であるといえる。この海上保安庁法が戦後の混乱期に組織法と執行法を一つの法律としてまとめられたのは、海上保安庁が米国コーストガードを範として創設されたものであったからやむを得ない点があるのかもしれない。 確かに防衛省・自衛隊では防衛省設置法、自衛隊法、自衛隊施行令など「組織法」と「執行法」を複数の法令に分けています。海上保安庁ではそういったものが一つにまとめられている点で珍しいといえる、としています。また、海上保安庁法は「執行法」として国民に対し権限を行使し、国民の行為を制限規制するにもかかわらず、警職法と違い市販の六法全書には掲載されていることがほとんどない、という点を山本草二氏の指摘を引用する形でおかしな点だとしています。たしかに、六法全書に収められているのを見かけませんね。国際条約集には収録されているものもあるんですが・・・(ベーシック条約集など)。
第6章では海上保安庁の情報活動について解説しています。情報といっても海洋情報ではなく「インテリジェンス」に関してのものです。近年、急速に「インテリジェンス」という言葉が広まった感がありますが、ほとんどが外交・軍事・公安関係の本によるもので、海上保安庁の情報活動にまで言及したものはほとんどありませんでした。
この本では、まず最初に政府情報会議の強化を挙げています。この政府情報会議の機能強化によって、今まで合同情報会議を中核とした日本のインテリジェンス・コミュニティーに臨時的にしか参加していなかった海上保安庁が正式メンバーになったことに言及しています。
この件に関しては本誌に載っていませんが元海上保安庁長官で現・奈良県知事の荒井正吾氏が参議院議員当時に政府委員に対して行った質問に触れておかなければなりません。
平成17年04月25日 参議院 決算委員会
○荒井正吾君 それと、質問時間が限られておりますので、もう一点併せて質問したいと思いますが、内閣官房の方で内閣情報会議が設置されております、合同情報会議が平成十一年一月十一日から設置されております。私、海上保安庁の長官のときに、国境警備を受け持っておる海上保安庁がその合同情報会議に入んないのはおかしいなというふうに思って個人的に申入れもしておりました。その理由が分かんないまま、返事が私自身には届いておりません。他国の海外警備機関と情報連絡体制を整備しております面もございますし、内閣官房は、どうして海上保安庁はインテリジェンスコミュニティーに入れないのか、明確に答えていただきたい。
最後に、その二点、外務大臣と内閣官房に御質問をしたいと思います。
○国務大臣(町村信孝君) 荒井委員、大変このインテリジェンスの問題に御造詣も深く、また御関心も強く持っていただいていること、大変に有り難いことでございます。
率直に言って、このインテリジェンス機能、戦後の日本の対外関係、あるいは国内も、国内は警察がかなりしっかりしているからいいのかもしれません、特に対外関係のこのインテリジェンス活動、非常に弱い分野でございます。かねてよりそういう問題意識を持って、私も、特に九・一一以降、この問題についてはいろいろな提言を当時の福田官房長官に申し上げたりしてきたこともございました。
たまたま今回、外務大臣を拝命いたしたものですから、実は明日第一回目の、まず、外務省だけでどこまでやれるか分かりませんけれども、対外情報機能強化に関する懇談会というものを数名の委員さんにお願いをして、明日実は第一回の会合を開くことにいたしております。その中で、今委員が御指摘になったいろいろな問題があるわけでございまして、外務省の中でできること、外務省限りではなかなかでき得ないこと、たくさんあろうかと思いますが、それ、線を総まとめにして一定の提言をできるだけ早くまとめていただきたい。私も可能な限り議論に参画をしてまいりたい。
いずれにしても、皆様方から、こんなことも外務省知らないでよく外交ができるなといっておしかりをいただくんでありますけれども、現実に、率直に言って弱い部分は弱いということは認めざるを得ないわけでございますが、いつまでもぼやいていてもしようがございませんから、できる限りインテリジェンス機能を高めるように、院の御理解、国会の御理解もいただきながら鋭意努力をしてまいりたいと考えているところでございます。
○政府参考人(伊佐敷眞一君) お答え申し上げます。
情報の重要性につきましては、先生御指摘のとおりであると存じております。情報は国の政策を遂行する際の前提になるものでございますので、的確に必要な情報を収集し、集めましたいろいろな情報を突き合わせて分析をし、この際にはもちろん専門家の知見を最大限活用する必要があるわけでございますけれども、分析をして政策決定に必要ないわゆるインテリジェンスと英語では呼ばれます情報に到達するということが非常に重要であろうかと存じます。
同時に、このような情報の収集、分析、配付といいますものは、実務的には非常に難しい作業を伴うものでもございます。情報を入手する際にはいろいろな手段があるわけですけれども、人的手段、技術的手段には衛星ですとか電波傍受ですとか、御存じのとおりいろいろな手段があるわけですが、このような手段で情報を入手し分析するということは非常に困難な作業を伴います。
そのような背景で、(発言する者あり)そのような背景の下に、政府の情報機能を強化するという観点から、平成十年十月二十七日の閣議において内閣情報会議が設置されたわけでございます。(発言する者あり)その際の、その際の構成員が内閣官房、警察庁、防衛庁、公安調査庁、外務省となっておりまして、御指摘のとおり海上保安庁は入っておりません。
これは、この時点での閣議において、情報機能を強化するためにと、当面メンバーをこの五者に絞って始めるという意思決定があったものと考えております。ただし、必要がある場合にはこの構成員以外の省庁の方々の出席を求めることもございまして、事実そのような事例もございます。
今後、この構成員を変更する場合には、会議を開く場合に取り上げます議題にどの程度かかわってくるかと、その頻度、関与の度合いによるのではないかと考えます。海上保安庁が、海上保安庁において担当されている沿岸監視・警備、この分野が内閣情報会議においてどの程度の頻度、度合いで取り上げられるか次第によって今後判断されるべきものではないかというふうに考えております。
○荒井正吾君 時間の無駄と、もう時間過ぎていますので一言だけ言いますが、本当に時間の無駄の答弁で、しかも、最後に質問したから悪いかもしれないけれども、正確に答えていない。情報の管理の正確性というのを最初に一時間も掛けて言ったじゃないですか。冗談じゃないですよ。
引き続き、納得できない答弁なんで、答えに全然なってない納得できない答弁なので、どうするのかな、引き続き追及するしかないというふうに思いますが、ということを申し上げて質問を終わります。 一見すると、まるで野党議員による政府与党への追求のようですが、荒井氏はもちろん自民党議員でした。海上保安庁が合同情報会議の正式メンバーになっていないことに関して、政府側の答弁が全く説明になっていないのです。日本政府の海洋安全保障、沿岸警備に対する認識はこの程度でしかなかったといえます。今後、日本のインテリジェンス強化の方針がうまく進み、海上保安庁が正式メンバーとなったとしてもその前途は厳しいものがあるかもしれません。
日本の各省庁のインテリジェンス組織を一通り説明した後、海上保安庁のインテリジェンス組織の中核である本庁警救部警備情報課についても触れています。また、海上保安庁におけるインテリジェンス活動がどのように行われるか万景峰号入港を例に解説しています。しかし、この部分は公開がされておらずシビアなこともあるため具体性は余りないのが残念です。また、個人的には国際組織犯罪対策基地も治安情報という意味ではインテリジェンス組織ではないかと思います。もっとも国際組織犯罪対策基地は所在・規模・所属船艇が全く明らかになっておらず、いまや特殊警備基地よりも秘の度数が高い施設・組織ですから、解説するのは無理なんでしょうけど・・・・
最後の章では「東アジア諸国の海洋政策」と題して、中国・韓国・極東ロシア・ASEAN各国の方針・施策を紹介し、日本における海洋政策の課題や展望でまとめています。挿入される写真のほとんどがコーストガードに関するものですが本文は海軍力、海運力など多岐に渡って説明しています。この章こそ、この本の肝となる部分であると考えてもいいので詳しく引用解説はせず、興味を持った方自身に確かめていただきたいと思います。
この本には海上保安庁関係者だけでなく山本氏などの国際法関係の方からの助言や引用があり、今後の海洋政策、海上保安政策を考える上で極めて参考になります。特に末尾の参考資料が充実しており、参考文献リストも掲載されています。本文でも各種新聞・雑誌・書籍・論文から引用されており、海上保安庁関係のリファレンスブックとしても活用できるでしょう。既存の類似書のように警備や救難という個別の業務に特化せず、海上保安庁全体・国家全体・国際関係といった視点から書かれた良書です。今後出る海上保安レポートとあわせて読むことをオススメします。
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2009年5月4日 09時45分
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@海上輸送は日本の生命線&ポリスシーパワー
管理人氏(蒼海がよろしいでしょうか?)は別の見解をお持ちでしょうが、海自さん家同様に「自組織の存在意義喧伝のために海運業界を使うのは即刻止めてくれ」と海事関係者としては強く思います。
@「19世紀以降の海上警察権行使が海軍力から文民に移行していった」
逆に本国を始めとして「欧州ではなぜ沿岸警備隊が海軍から分離独立されないのか」に言及しないと「自組織の存在意義喧伝」としか取れません。WWII以前の「独立空軍論」にさえ思えてきます。
@海上保安庁が仕掛ける新しい灯台
灯台部(現:交通部)はその存在意義を失ったのではないかと思います。先日も東京湾内の灯台に無線LANを括り付けて航行船舶(見回り船&大学練習船)との通信実験をやりましたが、これは別に灯台部がやる仕事でも沿岸域管理でも無いと思うんですが。よくてせいぜい「灯台の有効な利活用」でしょう。
@海洋情報ではなく「インテリジェンス」
異議があります。研究ですら発表までは非公開が原則ですし、取得したデータは(特に海底石油、鉱物資源など)は国レベルで管理していないと外国の会社に鉱区権申請されます。海洋政策本部で現在進めているデータ管理もこの一環です。
今年から始めるUKHOとの人材育成にしたところで、外国の情報が得られやすくなること、IHO(国際水路機関)やIOC(国際海洋学委員会)などで日本の意見を通す一助にするのも育成の目的(ネットワーク化)と思います。
ま、本国は本国で「別の思惑」があるので同研修を受け入れていますけど。