2010年12月07日(火)
'09
‘09
*************  スーパー玉出   *************
まるい月ごろりと光るこの町におもへり久生十蘭の「魔都」
改装する前は病院だつたからスー玉花園店は清潔よ
お休みを貰つてはじめて気づきけり佛花は朝によく売れること
レジ打ちの女の両手たえまなく働いてゐるうつくしきかな
買物袋両手に提げて家路ゆくわたしらはいま魚籠の中にゐる
朝食の玉子かけご飯さういへば玉子も飯つぶも単細胞
玉子パックの真赤な糸を引きぬけばさみしくなりぬ糸も玉子も
本日のそれは招待状のやう玉子についてゐた白い羽根
塩鮭に塩足しをれば二日前切りし小指のきずの灯りぬ
新生児がおしりをむけてねてゐるやう山積みのヤマザキロシアパン
ワゴンから下くちびるの趣きでなまつちろおい饂飩がぽろり
明太子とトレイの間の中敷のびみやうなぐつしより感がなんとも
茹でながらしみじみおもふれんこんはやつぱり人の腕に似てゐる
チラシには激安の字が爆ぜつづけ合戦図めく(見えざる敵との)
ファミリーセットなる総菜が並べられ今日からはじまる黄金週間
君だけはゐてもいいよと云ふやうに5食パックのチキンラーメン
じやがいもたまねぎ雨よけシートをかけられて大きなデスマスクの不格好
不格好な苺であるが花びらが一枚ついてゐるのは良かれ
止まれない汽車の映画があつたつけ買物中にふと思ひ出す
「貝」としか記されてないこの貝をむかし郷里で食つたことある
小波のかたちの残るしろえびをこはさぬやうにちやほや揚げる
買ってみたフルーツトマトさういへば犬の雑種を近頃見ない
六月に危機があるから食糧の備蓄をせよとふぐり玉蔵氏  (ふぐり玉蔵は実在の人物)
カタストロフィー願望らしく買いだめをしつ恐慌をほんのり夢みる
昨日買ひし蓮の苗より生まれたるメダカの一生そこそこ数奇
外来種の田螺を朝な殺しつづけ二月経てば田螺居らず
裏口で給与明細見せあへる少年たちは薇(ぜんまい)の束
入口でウェルカムゆうてるミッキーとドナルドはディズニーには内緒
最期まで見届けなければスー玉も中国の偽ディズニーランドも
詩歌的誇張なのねと思ふなら「スーパー玉出 恐怖」でググれ
ヤマアラシとイタチの死闘を観てをれば終生の敵あるが羨しき
潜水艇乗組員の貌をした小男が買ふ黄桜ワンカップ
うつむいて女がチラシをよんでゐる暗号文のやうにつぶさに
夏長からん店角のネオン管ぢぢと疲れた音たてをれば
来日してレジ打ちせよと母は産んだか深夜に酒買ひにゆけと母は
不況とは中国人がレジから消え日本のおつさんが入ること
有名な首斬り浅右衛門だとて作業服に着替えてゐたらしく
スー玉の裏は猫町 増えすぎた猫には誰も名前をつけない
手羽先・ハム・牛タン・ちくわ詰め込みし「おかずセット」に鵺(ぬえ)を想へり
さむいさむいと中国産のまつたけが吹かれてをりぬ肩よせ合つて
なりたいものなんてなかつたM寸の玉子パックのきちゅきちゅきちゅきちゅ
白い窓を次々あけてゆくやうな気分で烏賊を輪切りしてゐる
地軸ほど傾いでをりぬアンデスの冬日を浴びて育ちし南瓜
盗られるはすぐ食べられるものばかりだといふことが心に残る
食べ物がブクブク湧いてゐるやうな景に疲れてスー玉を出る
蕩尽せよ蕩尽せよといふ声すその精神は嫌ひではない
衛星からも見える電飾のスー玉におもりをつけて沈めてみたく
不況が生んだ町ゆゑ不況に強いてふ言葉遊びのやうな一節
色町には子犬の店がつきもので赤のまんまが風にゆられる
「ここに住まないでください」といふ貼り紙あり真剣なのか狙つてんだか
旅先のスーパーに入るは面白く潜水中の水夫の心地
情けないやうでなかなか巧みなり野郎二人の買物カゴは
「UFOで町おこし」てふ山村をエイリアンの表情で通過す
癌告知のやうなものかなこの地味な商店街にもスー玉できると
靴よりも蹄のほしきゆふべかな落花ふみつけふみつけ帰る
みみあなにプールの水が残る日は群をはぐれた魚のやうで

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| つくった歌 |
'08
‘08
づつとおまへはそこにゐたのか二次会のバー「露口」のアンクルトリス
落下傘、波止場、ガス燈、ソフト帽、ばら色の頬、アンクルトリス
駅にゐる毛長の猫に「駅長」の名を与へしがちかごろは見ず
駅へゆく近道としてにぎはへり開発失敗ビルの地下街
CO2削減唱う企業らのその優雅さをすこし憎んだ
四日経つたびワンフロア伸びてゆくバベルの、もといドバイのホテル
人にわれはだう見られてゐるのだらうと大水槽の河馬の前にて
祖母の中のわれは会社の昼休みにバレーボールをしてゐるらしき
みづからの粗熱を払ふかのやうにさくら花びら降りつづくよる
公園にしんとつもれる花屑の中にまじるひとつぶのフリスク
塩は粗にさくらは密にまぢりあひ今年も作る八重桜漬け
葉のなかをかけゆく栗鼠の残像はうらはづかしく緑に染みて
声以外捨てるところのないといふ牛の声する春の麓に
きつちりが却つて雑を思はせるアフリカのまつすぐな国境
舞台度胸と、云ふものに像あらば広場よこぎるこの猫のかたち
どことなくすまなささう雲のきて週末は大雨、雨見酒
変化多き十九世紀のあちこちで巨大化したる像よ仮面よ
熱心に友が勧めしケアンズは四国でいふと鳴門のあたり
ひとかけの埴輪の肌をぼんやりとみつめてをればほのと灯りぬ
墳墓とはときに一羽の鳥めきて春の日差しにうづくまりをる
覗きたる樹のウロはやや浅くつて悲しんでみる山栗鼠として
中年はウールコートの袖口が汚れはじめてぬいぐるみめく
スターリンはペンネームらしペンネームの人に粛清されるつて 鬱
パドックに犬、猫、崖つぷちの女、何でも食べたがる赤ん坊
手鏡の中からやつと戻りきて見慣れぬかほの女友達
和田アキ子の誕生会に呼ばれたるやうな顔して春の廊下に
蛇口あけてしめてまたあけてタンク内の水のからだをねぢらすあそび
ビル群を電車から指さして云ふ凹んでるとこがうちの墓所よと
煙草すへば温もるのかとたづねれば沈黙ののちむしろ冷えるよと
実況の「コースを大きく外れた」と何がかは知らねど気にかかる
なにがしの時間稼ぎをするやうにワンクールきつちり観たドラマ
千手観音像の魅力といへばまあ打上花火的な何かと
涅槃像の鼻の穴などみてをれば釈迦も一人の男なりけり
X線にて浮かびたる骨片は仏像内でいまだ孵化を待つ
毘沙門の下から逃げた邪鬼として三十三所あそびゆきたし
目無経の一部となりてわたくしも目鼻なくなるまでもの思ふ
目も鼻もない女らに経文は日照雨のやうに平たく振りぬ
螺旋階段われの先ゆく人ありて見ゆるたびどこかが歪みをり
世の中はかうして回つてゐるのだらうカウンセラーもすなる自棄食ひ
単純なものであるほど計算は大事だとけふのペペロンチーノ
嘘ぢやなく私服は派手なはうが良い気持ちがさみしければなおよし
ペンネームの披露をすればそんなモノ産んだおぼえは無いと云はれし
自転車でるりるらりるりら下校してゆく少女らよかうもりの群れ
巣づくりにひたに無心の蜘蛛ゆゑに足と足とがからまりもする
安全な避妊について語りつつ浅蜊の殻を割つてしまつた
動物園の客に背を向けジャイアントパンダは食事中、いい尻だ
今は亡き飼猫たまに夢に来てこのごろは人語を話したり
気取られぬやうに抱く愛、毛深くて気高くて毛深くて猫ども
自らの余白を埋めてゆくやうに喋りつづけて面接了へぬ
ぎんなんのしらじら匂ふ中学はタイムカプセルあほほど埋めて
身のうちにある重心を低くしてココロノジユンビココロノジユンビ
帰り道ひとつまちがへまちがへて運河に出てしまひたるゆふぐれ
晴れながらちんちらちんちら雪は降り穴に棲んでたころのあかるさ
菩薩でも生へてきさうな名前なり苦土石灰といふ園芸土
「大きいつづら」の婆の余生が気にかかるさうやすやすとは死なぬとおもへど
ひらひらと帰るゆふぐれ空にした弁当ぶんのかるさを提げて
うたびとがうたを語るは競走馬が競馬評論書くのに似たる
軽い荷物の旅をきどりて出てゆきしがまさか米を買つて帰るとは
「日本三大うどん」の3.5番目だと聞けば肩入れしたくもなりぬ
腿逞きスピードスケーターの休日はミニスカートを頭から穿く

*************  スーパー玉出   *************
26号線ゆかばあちこちに瘤の如くにスー玉がある
地方から遊びに来た友人をまづ連れてゆく夜のスーパー玉出
香港に来たみたいだと友人云ふ香港人の心境や如何に
産地など問ふのはもはや野暮やねんスーパー玉出の食品売場
スーパー玉出今宵もぎらぎら輝きぬ蹴ればばたんと倒れさうなり
これでもかと電飾されてスー玉はいつかの夜に地上を離る
適当に云つていいなら西成は赤信号がよく映える町
「出血大サービス」のチラシの片隅の「パート急募」の文字おそろしき
有耶無耶に切つて煮込んでパックには「総菜」とでも書くほかはなく
何故ここにミラーボールがあるのだらうパンを色つぽく見せてだうする
何故そんな外装なのかそれはもう極楽鳥にでも訊くといい
ネオン管もミラーボールもこのごろは見慣れてしまつて景観のひとつ
どの店員の胸の名札も裏向いて何かのサインめく夏夕べ
山積みにされてゆらりと光りをるお盆といへばリリーの缶詰
一主婦の買物帰りにみえるだらう日傘をふかくさせばなおさら
難民の多い国から届きたるオレンジならば一山ナンボで
スー玉のチラシによると本日は「ハムの日」らしき八月六日
千円以上買い物すれば一円でうどんが買えるうどんの立場
一円でレジの真横に積まれたる大福餅が汗かいてをり
ああこれは家族の数だと気づきけり三袋パックの「朝のふりかけ」
店長が首に下げをるホイッスル吹くとき滅ぶ世界もあらむ
問題の冷凍餃子がうちの家にもあつたよとうれしげに云ふ
本日のサービス品と書かれたる豚足の丈すこし長くて
曲線がうつくしいので思ひ出すしやもじはときに化けるといふこと
リクガメが眠るウサギに追ひついて今日が期限の横浜プリン
見切品とは時間との闘ひに敗れちまつた森永マミー
あはれとはスーパー玉出のでかすぎるBGMに震へるなすび
軍歌とも音頭ともつかぬ曲流れ死ぬまでづつと阿呆で居たい
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| つくった歌 |
'07
‘07
なかなかに開かぬ抽斗その奥の立ちあがりをるものを思へり
面識のまだ無き人の顔いつも白くてまるくて若冲の虎
あんな目玉だらけの羽して雄孔雀きつときつと転生のどんづまり
どんな顔をしたのか絵師は一軸に巨大な桃を三つも描いて
花鳥図の花燦と立ち鳥は金泥の向ふをうかがつてゐる
英名はsea anemoneと聞いてよりいそぎんちやくの揺れがとまらぬ
折りたたみ傘たたむとき花びらのごときが生まれ水色の薔薇
洟出して泣くも笑ふもなくなりて今日の議題は洟水がいい
客待ちのタクシー淀み少しづつ大阪の夜へ流れてゆきぬ
レターセット買ふたび余る便箋の数だけわれの不具合あらむ
耳裏を掻かれてけものの心地する床にはシュレッダーの屑がそのまま
最悪の事態を予想しつづけて或る処から面白くなる
最高の展開を夢想しつづけて或る処からつまらなくなる
種をまくのが遅かつた夕顔の花を咲かせたまま冬に入る
楽器持つ女は美人に見える事思ひ出しつつ観る弁財天
聖夜電飾ひとつもしないわが実家がだんだんひどい家に見えてくる
傘をさす人の歩みはゆつくりでそれを見るたび雨が好きになる
混みあへる二等船室をのをのが没頭といふ型にて眠る
ミトン型手袋をして節分の街を人さらひの目つきして
自覚なきところをゝ(ちょん)と誉められてあこやの貝の心地するかも
缶切りのこくりこくりと進みゆき内円いつぱいにひらく安けさ
説明会:毎日といふ英会話教室みたいな印象の彼
ぐびぐびとコーラ飲みつつ若者が階段をしかも昇つてゆけり
越してきた街には本屋が見あたらず海馬無くせし脳を思へり
コルレオーネの家族会議はたれ一人正論言えへんから面白い
いま生れる忘却曲線その先へ頭を下にして落ちてゆく
同輩のようこ・みよ・かよ・やよいらのよの字八分音符の如しよ
やり直すために潰さう念入りな洗顔のちの二度目の化粧
土蜘蛛と髪切虫のかほならむ満員電車降りしわれらは
ひとつぶの種よりのびし根の先のすきとほりつつかじかんでゐる
欲しいものあるときだけは頑張れる猿の頃からさうだつた筈
清算機ぴつと止まれば清算機の四方正面枯野とおもふ
何用のゴムパッキンか路上にて輪であることをつとに主張す
冗談が嫌ひな人がイチローの契約金について熱弁す
ざはざはと夜露の生れて自転車はぎんいろ畑にんじん総立ち
いつも腹すかしてしかし少しだけ食べたら満足する子だつたね
トラ猫は猫基本形黒猫は猫の究極形とおもへり
枯葉などに詩は感じぬが内圧も外圧もないものは羨しき
夏闇はかくもうつくし彼の持つ煙草火ひとつ近づいてくる
マクドナルドハッピーセットはおもちや付きそんなに子供は退屈なのか
ハイヒールの素描はとてもむつかしく女体想ひつつ描けと云はれる
つれだつてまた呑みにゆく春宵のわれらの尻には尾が生えてゐむ
健診のサーモグラフィー七色のわれのからだの蜥蜴めきたり
舌を出すかはりに靴を片脱ぎす通勤電車は今も慣れない
先月の水族館の半券がかばんの中をいまも漂ふ
あなたには云はないでをく或る鳥は人より永く生きるといふこと
修理屋の奥に車の吊られゐてたれも撞かざる鐘のごとしよ
美容師の邪魔はしません客われの南伸坊じみた微笑み
心よむ妖怪などは信じねど信じねど美容師の洗髪
かたはらの造花の奇怪なりけるを見てゐるうちにカットは終つた
出口まで美容師が附くいつよりか何処のお店もさうなつてゐる
七色の折込チラシはひきちぎり易くチラシもノリノリで哭く
「ゆたかなる速度」とは云はず速さとは基本さみしいものかもしれぬ
液晶のセキュリティキーひたひたと押せば肌のやうなぬくもり
北も南も西も海見ゆニュータウンここで育てばどんな目をする
観光船サンタマリアは海賊船めかして定時に港を離る
滝浴びる夢でもみてゐたのだらうか目覚めた腕のやや痺れをる
わたくしの帰宅するまで酢の中を鯖一切れはひいやり眠る
どきどきとぎとぎとの平日が過ぎ週末は馬鹿みたいに泳いだ
ゆふぐれの阪堺電車は「おしいれのぼうけん」にゆく子らで犇めく
水中花水に落とす如短縮のダイヤルそつと押してただ待つ
先を読むことはたいせつつるばらもうによんと伸びてからでは遅い
一枚の扉がそこにあるやうにひるがへりたりエンゼルフィッシュ
うつつへと騙されてみむ間取り図に「下現状優先」とある賃貸
宴果てて煙草によせるライターの炎はづつと逆立ちてをり
午睡よりぬうつと覚めて窓際の水泳帽のまだ濡れてゐる
また暑い日になりさうだ禽獣の声高砂に鳴ける裏庭
水槽にはりついてゐるいちまいの鱗はたれの虹となるらん
営業の範囲に加へられてより尼崎を「アマ」と云ひはじめる
それなりのかかはりのある新開地を「カイチ」と呼ぶのだけはまだまだ
うるはしき列なす蟻に蜥蜴寄りその後は素早すぎて見えない
ありつたけ与へられればあのやうな顔になるのかとのみ思へり
コキコキコキコキコキと音するやうに働いた日は低き枕を
蟻を閉ぢこめた琥珀のブローチが去年の冬から見つかりません
「別腹」と云ひきりたれば大抵の矛盾は筋が通つてしまふ
ルアーショップの店員さんは知らなんだ「飢饉は海から」といふ諺
ドイツからの客がカメラで撮つたのは雑踏でティッシュを配る人
脱ぎつぱなしのオーバーコートが床にあり朽ちゆく舟をわれは思へり
土ついた野菜のやうな暴言でなんだか怒るのが勿体ない
つりあげし鰯は大気に耐へきれずみづからワタを出してしまふと
日曜に干した五枚の白シャツがあと一枚の木曜のよる
このコートの季節となりて外に出れば近所の犬が今年も吠える
やはらかな引つかき傷か宵口の空に残れる飛行機雲は
よく分らぬ理由のありて飛行機雲なくす研究すすみをるとふ
2010年12月7日 | 記事へ |
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