‘09
************* スーパー玉出 *************
まるい月ごろりと光るこの町におもへり久生十蘭の「魔都」
改装する前は病院だつたからスー玉花園店は清潔よ
お休みを貰つてはじめて気づきけり佛花は朝によく売れること
レジ打ちの女の両手たえまなく働いてゐるうつくしきかな
買物袋両手に提げて家路ゆくわたしらはいま魚籠の中にゐる
朝食の玉子かけご飯さういへば玉子も飯つぶも単細胞
玉子パックの真赤な糸を引きぬけばさみしくなりぬ糸も玉子も
本日のそれは招待状のやう玉子についてゐた白い羽根
塩鮭に塩足しをれば二日前切りし小指のきずの灯りぬ
新生児がおしりをむけてねてゐるやう山積みのヤマザキロシアパン
ワゴンから下くちびるの趣きでなまつちろおい饂飩がぽろり
明太子とトレイの間の中敷のびみやうなぐつしより感がなんとも
茹でながらしみじみおもふれんこんはやつぱり人の腕に似てゐる
チラシには激安の字が爆ぜつづけ合戦図めく(見えざる敵との)
ファミリーセットなる総菜が並べられ今日からはじまる黄金週間
君だけはゐてもいいよと云ふやうに5食パックのチキンラーメン
じやがいもたまねぎ雨よけシートをかけられて大きなデスマスクの不格好
不格好な苺であるが花びらが一枚ついてゐるのは良かれ
止まれない汽車の映画があつたつけ買物中にふと思ひ出す
「貝」としか記されてないこの貝をむかし郷里で食つたことある
小波のかたちの残るしろえびをこはさぬやうにちやほや揚げる
買ってみたフルーツトマトさういへば犬の雑種を近頃見ない
六月に危機があるから食糧の備蓄をせよとふぐり玉蔵氏 (ふぐり玉蔵は実在の人物)
カタストロフィー願望らしく買いだめをしつ恐慌をほんのり夢みる
昨日買ひし蓮の苗より生まれたるメダカの一生そこそこ数奇
外来種の田螺を朝な殺しつづけ二月経てば田螺居らず
裏口で給与明細見せあへる少年たちは薇(ぜんまい)の束
入口でウェルカムゆうてるミッキーとドナルドはディズニーには内緒
最期まで見届けなければスー玉も中国の偽ディズニーランドも
詩歌的誇張なのねと思ふなら「スーパー玉出 恐怖」でググれ
ヤマアラシとイタチの死闘を観てをれば終生の敵あるが羨しき
潜水艇乗組員の貌をした小男が買ふ黄桜ワンカップ
うつむいて女がチラシをよんでゐる暗号文のやうにつぶさに
夏長からん店角のネオン管ぢぢと疲れた音たてをれば
来日してレジ打ちせよと母は産んだか深夜に酒買ひにゆけと母は
不況とは中国人がレジから消え日本のおつさんが入ること
有名な首斬り浅右衛門だとて作業服に着替えてゐたらしく
スー玉の裏は猫町 増えすぎた猫には誰も名前をつけない
手羽先・ハム・牛タン・ちくわ詰め込みし「おかずセット」に鵺(ぬえ)を想へり
さむいさむいと中国産のまつたけが吹かれてをりぬ肩よせ合つて
なりたいものなんてなかつたM寸の玉子パックのきちゅきちゅきちゅきちゅ
白い窓を次々あけてゆくやうな気分で烏賊を輪切りしてゐる
地軸ほど傾いでをりぬアンデスの冬日を浴びて育ちし南瓜
盗られるはすぐ食べられるものばかりだといふことが心に残る
食べ物がブクブク湧いてゐるやうな景に疲れてスー玉を出る
蕩尽せよ蕩尽せよといふ声すその精神は嫌ひではない
衛星からも見える電飾のスー玉におもりをつけて沈めてみたく
不況が生んだ町ゆゑ不況に強いてふ言葉遊びのやうな一節
色町には子犬の店がつきもので赤のまんまが風にゆられる
「ここに住まないでください」といふ貼り紙あり真剣なのか狙つてんだか
旅先のスーパーに入るは面白く潜水中の水夫の心地
情けないやうでなかなか巧みなり野郎二人の買物カゴは
「UFOで町おこし」てふ山村をエイリアンの表情で通過す
癌告知のやうなものかなこの地味な商店街にもスー玉できると
靴よりも蹄のほしきゆふべかな落花ふみつけふみつけ帰る
みみあなにプールの水が残る日は群をはぐれた魚のやうで
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