2012年02月14日(火)
ガルッピの「6つのトリオ・ソナタ」
最近はロマン派とか現代音楽を続けて聴いているので、ここらで久し振りにバロック音楽を聴いてみようと思った。

そして、かねてから目を付けていたこのディスクを聴いてみることにしたのである。作曲しているのは、昨年の12月26日にご紹介したバルダッサーレ・ガルッピ(Baldassare Galuppi, 1706 - 1785)である。

前回にも書いたように、このガルッピという作曲家はまずもってオペラの作曲家として知られており、器楽曲だけを集めたディスクは珍しいようである。したがって、今日ご紹介するこのディスクも「世界初録音」なのだ。このディスクの録音は2010年11月にトリノで行われているので、21世紀になっても未だに録音されていない彼の作品があったことを示している。

このディスクのジャケットにも書いてあるように、このディスクに収録されている曲は“Sei sonate a tre a due violini e basso continuo (2つのヴァイオリンと通奏低音のための6つの三声のソナタ)”である。WIKIPEDIA(イタリア語版)にもかろうじて器楽曲のところに作品名は書いてあるが、残念ながら作曲年代は判らない。

NMLには「ウプサラ大学コレクション」と書いてあるので、、スウェーデン中部のウプサラ(Uppsala)にある大学に楽譜が保管されていたのであろう。ただし、彼の経歴をざっと眺めたところ、彼がスウェーデンを訪問したような形跡はないので、ヴェネツィアを拠点に活動を展開した彼の作品が、なぜスウェーデンにあったのかよく解からない。

1764年に彼はロシア皇帝エカテリーナ2世の招聘に応じて3年間の契約で、サンクトペテルブルクの宮廷作曲家として赴任している。その際、彼は息子を同行させたが、妻と娘たちはヴェネツィアに残したと伝えられている。

しかし、彼は真っ直ぐにサンクトペテルブルクに向かったわけではなく、途中で寄り道をしてカール・フィリップ・エマヌエル・バッハ (Carl Philipp Emanuel Bach, 1714 - 1788)やジャコモ・カサノヴァ(Giacomo Casanova, 1725 - 1798)を訪問しているので、サンクトペテルブルクに着いたのは翌1765年9月のことだったという。

これは私の想像に過ぎないが、啓蒙専制君主と言われた女帝エカテリーナの下で音楽活動を行ったことで、北欧にも彼の名前や作品が広まったのではないだろうか。フランス革命後はエカテリーナも、ロシア国内への革命の波及を恐れて自由主義を弾圧するようになったが、ガルッピが過ごした3年間はまだ比較的穏やかな時期だったのである。

そんな彼が残した「6つのトリオ・ソナタ」の収録曲は、以下の通りである。

1.トリオ・ソナタ第1番 イ長調
2.トリオ・ソナタ第2番 ヘ長調
3.トリオ・ソナタ第3番 ニ長調
4.トリオ・ソナタ第4番 ト長調
5.トリオ・ソナタ第5番 変ロ長調
6.トリオ・ソナタ第6番 ホ長調

演奏は、アカデミア・デイ・ソリンギ(Accademia dei Solinghi)である。このディスクでの楽器編成は最小限に抑えられており、ヴァイオリン2挺とチェロ、チェンバロの4人で演奏されている。

全ての曲は3楽章様式で、基本的には「急 - 緩 - 急」の構成である。いずれも、長調の曲なので明るく和やかな曲想である。

C.P.E.バッハに比べれば少し古風な印象を受けるが、アントニオ・ヴィヴァルディ(Antonio Vivaldi, 1678 - 1741)の作品のように単調な感じは受けない。

2挺のヴァイオリンだとキンキンと頭に響くように思われるかも知れないが、それほど刺激的な音色になっていないのは、彼の作風のせいかも知れない。

また、ピリオド楽器による演奏であるため、2挺のヴァイオリンが互いに美しく響き合っている。チェンバロがリュートのように響く個所もあり、実際の編成以上に奥行きのある音響を生み出している。

彼の本領だったオペラのDVDは日本で入手可能なものが少なく、ましてや日本語字幕付きのものはほとんどないような状態である。しかし、ヴィヴァルディを聴く時間があれば、今の私は間違いなくガルッピの「知られざる名曲」を聴くほうを選ぶだろう。

2012-02-14 22:35 | 記事へ | コメント(0) | トラックバック(0) |
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2011年12月26日(月)
バルダッサーレ・ガルッピの「4声の協奏曲第1番 - 第7番」
バルダッサーレ・ガルッピ(Baldassare Galuppi, 1706 - 1785)という名前は、いかにもイタリア人らしい名前である。しかし、私はこのイタリア生まれの作曲家の作品は聴いたことがないはずである。

ヴェネツィアで活躍したと言われるこの作曲家は、やはりオペラ・ブッファの作曲家として有名らしいが、イタリア語が解らない私がリブレットなしにオペラを聴いていても、楽しいはずはない。

しかし、このディスクは純粋な器楽曲だけを収めているので、聴いてみようかという気になった。しかも、HMVのレビューには、「非常に珍しい協奏曲作品集です」と書いてあるではないか。さらに、「1740年頃の作曲だろうと推測されています」という注釈が付いている。ということは、彼の作品の中でもあまり顧みられることがなかった作品に違いない。

彼は、イタリア北東部ヴェネツィアの潟にあるブラーノ(Burano)という島で生まれている。彼の父親は理髪師であったが、音楽とは無縁だったわけではなく、この父親もオーケストラでヴァイオリニストを務めていた。したがって、ガルッピの最初の音楽教師は、この父親だったに違いない。

ガルッピはその後、地元の音楽院で教育を受け、15歳の時に最初のオペラを作曲したが、キオッジャ(Chioggia)での初演は失敗に終わったという。彼はヴィチェンツァ(Vicenza)で同じオペラを別のタイトルで上演したが、やはりこれも失敗だったそうである。

その後、彼はアントーニオ・ロッティ(Antonio Lotti, 1667 - 1740)に師事して音楽を学び、フィレンツェでチェンバロ奏者として活動した。しかし、彼のオペラの創作意欲は衰えず、1728年にはヴェネツィアに戻って、「ドリンダ(Dorinda)」という第2作目のオペラを作曲し、翌1729年のこのオペラの上演は成功裡に終わった。ただし、これはオペラ・セリアであってオペラ・ブッファではなかった。

すなわち、彼はオペラ・セリアでまず成功を収め、その後、1740年代からカルロ・ゴルドーニ(Carlo Osvaldo Goldoni, 1707 - 1793)の台本に基づくオペラ・ブッファを作曲し、次第にその名声をヨーロッパ中に広めて行ったようである。したがって、ロンドンやサンクトペテルブルクで過ごしたこともあるが、活動の拠点はあくまでもヴェネツィアであった。

さらに、彼はオペラの作曲家として有名だっただけではなく、ヴェネツィアで慈善団体や宗教団体の公職にも就いており、宗教音楽も多く残している。鍵盤楽器の名手としても知られ、鍵盤楽器のための作品も残している。したがって、彼はヴェネツィアでは尊敬の対象だったのである。しかし、彼の死後、彼のことはほとんど忘れ去られてしまった。

上記の略歴からもお解りのように、彼の代表作はオペラと宗教音楽であり、このディスクのように器楽曲だけを集めたものは、確かに珍しいのかも知れない。そんなディスクの収録曲は以下の通りである。

1.4声の協奏曲第4番 ハ短調
2.4声の協奏曲第2番 ト長調
3.4声の協奏曲第3番 ニ長調
4.4声の協奏曲第1番 ト短調
5.4声の協奏曲第6番 変ロ長調
6.4声の協奏曲第5番 変ホ長調
7.4声の協奏曲第7番 イ長調

演奏は、アンサンブル・イル・ファルコーネ(Ensemble Il Falcone)である。このアンサンブルは2000年に設立されたピリオド楽器によるアンサンブルで、メンバーは、ファブリツィオ・ハイム・チプリアーニ(Vn, 指揮)、ダヴィデ・モンティ(Vn)、グイード・デ・ヴェッキ(Va)、マルチェッロ・スカンデッリ(Vc)、マウリツィオ・レス(Violone)、パオラ・チャデッラ(Cemb)である。

これらの7つの協奏曲は様式的には必ずしも統一されておらず、単一楽章のものもあれば、2楽章様式、3楽章様式のものもある。

しかし、基本的には「緩 - 急 - 緩」という構成を基本としている。2楽章様式でも、1つの楽章の中で“Adagio - Allegro”という風にテンポが変わったりするからである。

弦楽器が主体の編成で、イタリアの作曲家の作品だから、もう少しアクロバティックに弦楽器が動き回るのかと思ったが、全体に比較的落ち着いた感じがする。

おそらくそれは、ガルッピが弦楽器よりも鍵盤楽器を得意としていたからかも知れない。そこには、オペラや宗教音楽で培った幅広い表現力が活かされているのであろう。せわしく追い立てられるような楽想ではなく、聴く者にゆったりとした安らぎを与えてくれる音楽なのだ。

78歳でこの世を去ったガルッピだが、彼の生まれ故郷のブラーノ島の中央広場には、彼を記念する彫像が据え置かれているのである。
2011-12-26 22:25 | 記事へ | コメント(0) | トラックバック(0) |
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