昨日が涼しかったからか、今日はやけに蒸し暑い気がする。どうしてもこういう日には、分厚い管弦楽の音よりフルートの涼しげな音を聴きたくなる。
そして、どうせ聴くのなら現代のフルートではなくて、フラウト・トラヴェルソ(Flauto Traverso)による演奏で聴きたいと思う。となると、どうしてもヨハン・ヨアヒム・クヴァンツ(Johann Joachim Quantz, 1697 - 1773)の作品を避けて通ることは出来ないのだ。
7月26日にも書いたように、彼はフルートの名手で、フリードリヒ大王(Friedrich der Große, 1712 - 1786)のフルート教師も務めた人である。したがって、前回に書いたように、彼の作品には「QV(Quantz Verzeichnis :クヴァンツ作品目録)」による番号が付けられ整理されている。
そして、前回ご紹介したのは「QV 1」に分類されるフルート・ソナタであった。しかし、実際に彼が作った作品はフルート・ソナタより、フルート協奏曲のほうが多いのである。ということで、今日は「QV 4」、「QV 5」、「QV 6」に分類されるフルート協奏曲を聴いてみることにした。
「QV 4」は、「フルートのソロ、2挺のヴァイオリンと通奏低音のための協奏曲」で、「QV 5」は「QV 4」の編成にヴィオラが加わる。そして、「QV 6」は「その他の管弦楽曲」に分類されている。しかし、クヴァンツのことであるから、「QV 6」に分類されていてもフルートが大活躍していることは言うまでもない。収録曲は以下の通りである。
1.10声の協奏曲 ト長調 QV 6:6
2.フルート協奏曲 ニ長調 QV 5:51
3.フルート協奏曲 ホ短調 QV 4:3
4.2つフルートのための協奏曲 ト長調 QV 6:5
演奏は、ムジカ・アド・レヌム(Musica ad Rhenum)で、特にイェド・ヴェンツ(Jed Wentz)の名前がフルート奏者として明記されているので、彼がリーダー的な存在なのであろう。彼はオランダのハーグ王立音楽院で修士号を取得し、ライデン大学で博士号を得ている。
1曲目から3曲目までは3楽章様式で、基本的には「急 - 緩 - 急」という構成になっている。最後の曲は4楽章様式であるが、「I. Spiritoso e larghetto - II. Allegro - III. Grave - IV. Allegro assai」という構成で、“Minuetto”が加わっているわけではない。
音響的に最も多彩なのは最初の「10声の協奏曲」で、2つのフルート、2つのオーボエ、ファゴット、ヴァイオリン、弦楽合奏と通奏低音という楽器編成である。また、同じ「QV 6」に属する「2つフルートのための協奏曲」は、「2つのフルート、弦楽合奏と通奏低音のための協奏曲」である。
したがって、フルートの音色をじっくりと愉しむには、2曲目と3曲目の「フルート協奏曲」が適していよう。
2つのフルートの絡み合いの妙を味わうのであれば、最後の「2つフルートのための協奏曲」がお薦めである。
いずれにしても、クヴァンツが作った夥しい数のフルートのための作品の中で、同じような曲を集めるのではなく、様々な編成の曲を集めることによって、単調な協奏曲集になるのを防いでいるのは見事である。
そして、伝統というのは昔のものをそのまま保存することではなく、それを現代的に再生することによって新しい息吹を吹き込むことだと気付かされるのである。
なお、鍛冶屋であった彼の父親は、彼が10歳になる前に亡くなった。父親は死の床で家業を継いで欲しいと息子に懇願したらしいが、彼が父親の遺志に従っていたならば、われわれはこれらの素晴らしい協奏曲を聴くことはなかったであろう。
幼くして両親を亡くしたクヴァンツは、身元引受人の叔父から音楽を学んだ。そして、その叔父がメルゼブルグ(Merseburg)という街のオーケストラ団員だったことが、彼の人生を大きく左右したのである。
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2011-08-22 21:27
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ヨハン・ヨアヒム・クヴァンツ(Johann Joachim Quantz, 1697 - 1773)という作曲家の名前は聞いたことがあるような気がするが、はっきり憶えていない。しかし、私は彼の肖像画に見覚えがあったので、きっと以前に聴いているはずである。
それで調べてみると、2009年3月6日に彼の作品を含む18世紀ドイツの管弦楽作品集を聴いていたことが判明した。
あの時聴いたディスクに収録されていたクヴァンツの作品は、フルート協奏曲だった。そして、今日ご紹介するのは、彼の「フルート・ソナタ」である。前回にも書いたように、彼はフルートの名手でフリードリヒ大王(Friedrich der Große, 1712 - 1786)のフルート教師も務めた人物である。
したがって、彼の作品にフルートを使った曲が多いのは当然だが、彼の作品リストを眺めると、その夥しい作品数に圧倒されてしまうのである。彼の場合は、ホルスト・アウグスバッハ(Horst Augsbach)によって整理された作品目録があり、それぞれの作品には「QV番号」(Quantz Verzeichnis)が付けられている。
ただし、この作品目録も作品のジャンルごとに調性順で整理されており、作曲年代を特定するのは難しそうである。しかも、最初に掲載されている「フルート・ソナタ」は、「QV 1: 1」から「QV 1:184」までの184曲と、補遺である「QV 1:Anh. 1」から「QV 1:Anh.45」までの45曲がある。合計すると、これだけでも229曲である。
ただし、これらの中には消失したものも含まれており、さらにその中にはフリードリヒ大王の作品も含まれているらしいので、更に混乱に輪を掛けている。しかも、作品リストの2番目には、「トリオ・ソナタ」が続く。これらのほとんどがフルートのための作品で、補遺も含めて全部で47曲あるのだ。
その次に来るのは通奏低音を伴わないフルート曲で、これが43曲ある。さらに、フルート協奏曲となると300曲以上になる。フルートのための作品をこれほど多く作った作曲家は、他にはほとんどいないであろう。したがって、今日ご紹介するディスクのように「世界初録音」の曲があったとしても、少しも不思議ではないのだ。収録曲は以下の通りである。
1.フルート・ソナタ第274番 イ長調 QV 1:145
2.フルート・ソナタ第232番 ト長調 QV 1:111
3.フルート・ソナタ第101番 ホ短調 QV 1:71
4.フルート・ソナタ第219番 ニ長調 QV 1:33
5.フルート・ソナタ ト短調 QV 2:35
6.フルート・ソナタ第305番 ハ短調 QV 1:14
7.フルート・ソナタ第349番 ヘ長調 QV 1:89
演奏は、マリー・オレスキェヴィチ(Mary Oleskiewicz)のバロック・フルート、ステファニー・ヴァイアル(Stephanie Vial)のバロック・チェロ、デイビッド・シューレンベルグ(David Schulenberg)のチェンバロである。
フルートのオレスキェヴィチの名前の響きはハンガリー風だが、この3人の活動の拠点はアメリカらしいので、演奏者の名前は全て英語風の発音表記にした。
上述の「QV番号」の解説に従えば、5曲目の「フルート・ソナタ ト短調」は「トリオ・ソナタ」に分類される。
オレスキェヴィチのウェブサイトでも、このディスクが、6曲の「フルートと通奏低音のためのソナタ」と1曲の「フルートと鍵盤楽器のためのトリオ・ソナタ」から構成されているという記述がある。
実際に演奏を聴いてみると、確かに5曲目の「トリオ・ソナタ」は、フルートとチェンバロだけでの演奏である。その他の6曲にはチェロが加わって3人での演奏になっている。そこで私は、「トリオ・ソナタというのは、2つの旋律楽器と1つの通奏低音のために作曲された曲ではないのか」という疑念を抱くことになった。
しかし、クヴァンツの生きた時代がバロックから古典派への過渡期に当たることを考えれば、彼は「トリオ・ソナタ」という言葉に新しい意味を込めて使っていた可能性がある。このディスクの中で唯一の「トリオ・ソナタ」とされている「フルート・ソナタ ト短調」は、モーツァルトの「デュオ・ソナタ(Duo Sonata)」の先駆けとなる作品だったのかも知れない。いずれにせよ、涼しげな雰囲気が全篇に漂う名演集である。
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2011-07-26 22:24
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