最近はなかなか自分の気分にぴたりと合致する音楽に巡り会わない。私の気分が音楽を聴くようなゆとりを失っているのか、未知の作曲家の探索に疲れて来たからなのか定かではないが、とにかく強く心を惹き付けられるような音楽に出会うことが少ない。
そう思っている時に私の目に留まったのが、NMLの4月12日の「新着タイトル」で紹介されていたこのディスクである。
今では作曲家としてよりも指揮者として有名になった感のあるピエール・ブーレーズ(Pierre Boulez, 1925 - )だが、最近はどんな作品を作っているのか私は全く知らなかったので、取り敢えず聴いてみようと思って私はこのディスクを聴き始めたのである。
2008年10月20日にも書いたように、彼は作曲家であるとともに指揮者でもあるから、代表作とされる「ル・マルトー・サン・メートル(Le marteau sans maître, 主なき槌)」も、少なくとも今までに5回は録音しており、その都度改訂を加えて行っている。そういう意味では、作品は一度完成したらそれで完結してしまうという考え方を根底から覆し、彼は常にその都度作曲しつつ演奏する音楽家と言えるのである。
しかし、私は彼の熱心なファンではないから、1940〜50年代の「怒れるブーレーズ」の時代から現代へと到る作品群を時系列に沿って聴いた来たわけではないし、指揮者としてストラヴィンスキーやバルトークなどの作品だけではなく、ベートーヴェン、ブルックナー、マーラーなどの作品を振るようになってからの彼の演奏も、ほとんど聴いたことがないのだ。
それにも拘らずこのディスクに興味を持ったのは、このディスクの演奏がブーレーズ自身の指揮によって行われたものではなく、しかも1988年に初稿が作曲されてから改訂を重ねて2006年11月7日に演奏された現時点での「最終稿」を使用した作品を収録しているからであった。
録音は2011年6月なので、作曲家ブーレーズの最近の姿を知るには最適ではないかというのが、私の期待したことであった。収録曲は以下の通りである。
1.メモリアル(Mémoriale)〜独奏フルートと、8つの楽器のための (1985)
2.デリヴ(Dérive)〜6つの楽器のための (1981)
3.デリヴ II(Dérive 2)〜11の楽器のための (1988/rev 2001, 2006)
演奏は、ダニエル・カフカ(Daniel Kawka :右下の写真)指揮アンサンブル・オルケストラル・コンタンポラン(Ensemble Orchestral Contemporain)である。このアンサンブルは、現在の音楽監督であるダニアル・カウカによって1992年に創立されたそうである。したがって、ブーレーズとともに演奏活動を行っていたアンサンブル・アンテルコンタンポラン(Ensemble InterContemporain)とは別個のグループのようである。
なお、楽器編成については、「メモリアル」は「Fl, 2Hr, 3Vn, 2Va, Vc」、「デリヴ」は「Fl, Cl, Vib, P, Vn, Vc」、「デリヴ II」は「Ob, Cl, Fg, Hr, Vib, Mar, P, Hp, Vn, Va, Vc」という編成である。収録曲を観ると、同じぐらいの演奏時間の作品が3曲収録されているように思われるかも知れないが、実際には1曲目の「メモリアル」は5分39秒、2曲目の「デリヴ」は6分26秒である。
したがって、このディスクの大部分は、演奏時間50分40秒を要する「デリヴ II」が占めているのだ。
“dérive”というのはフランス語で「漂流」という意味だが、ここでブーレーズがこの単語に込めているのは、英語の“derive (派生する)”という意味である。
すなわち、ここではスイスの指揮者で作曲家のパウル・ザッハー(Paul Sacher, 1906 - 1999)の「S - A - C - H - E - R」の6つのアルファベットの文字から派生する6つの音を素材にして、それを繰り返しながら発展させてゆく手法が採用されているそうである。
また「デリヴ II」は、アメリカの作曲家エリオット・カーター(Elliott Carter, 1908 - )の80歳の誕生日のために演奏されるべく作曲されたが、実際に初演されたのはそれより1年半ほど後の1990年6月21日だったそうである。
この曲ではカーターやリゲティの作品の特徴を取り入れているらしいが、私はそれらの作曲家の様々な作品に精通しているわけではないので、どこにリゲティの作品と同じような部分が登場するのか判別できない。
しかし、私は古典派の音楽を聴く時でさえ、「そとそろ提示部の第二主題が始まる」とか「ここが展開部だ」とか考えているわけではないので、ブーレーズの作品に関しても理論的なことはほとんど意識せずに聴いている。
その結果として感じるのは、ブーレーズ自身がこれらの作品を指揮していたのなら、もっと角の取れた滑らかな音楽なっていたのではなかろうかということである。作曲者自身の演奏が必ずしも最高の演奏だとは限らないというのが私の持論だが、ブーレーズよりずっと若いと思われる演奏者たちの感性は、作曲家としてのブーレーズの斬新さを改めて浮き彫りにしているように思うのである。
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2012-04-14 22:21
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ピエール・ブーレーズ /
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ピエール・ブーレーズ(Pierre Boulez, 1925 - )といえば、今や世界的な名指揮者としてその名を馳せているが、彼は著名な作曲家でもある。「何を今さら」と仰る方も多いと思うが、HMVのサイトで作曲家ブーレーズの作品のディスクを検索してみると、意外に少ないのである。
作曲家としての名声を確立したこの「ル・マルトー・サン・メートル(Le marteau sans maître, 主なき槌)」も、彼は今まで5回録音しているらしいが、それら全てを入手することはもはや困難であろう。この曲は、1953年から1955年にかけて作曲され、1955年6月18日にハンス・ロスバウト指揮によってバーデン・バーデンで初演されたそうであるが、私が知っているのは写真の“MUSIQUE DE NOTRE TEMPS”に収録されている1964年の録音だけである。
この曲の編成は、アルト(女声)ソロ、フルート、打楽器、ヴィブラフォン、クシロリンバ(xylorimba、木琴の一種)、ギター、ヴィオラと非常に特異である。全体は下記の9曲から構成されている。
1.「激怒する職人」の前奏
2.「孤独な死刑執行人たち」の補遺 T
3.「激怒する職人」
4.「孤独な死刑執行人たち」の補遺 U
5.「美しい建物とさまざまな予感」
6.「孤独な死刑執行人たち」
7.「激怒する職人」の後奏
8.「孤独な死刑執行人たち」の補遺 V
9.「美しい建物とさまざまな予感」(変奏)
この内、第3曲、第5曲、第6曲、第9曲に声楽が出てくる。この声楽のテキストは、シュルレアリスムの詩人ルネ・シャールの詩集「ル・マルトー・サン・メートル」(1930年)から3つの詩が用いられているそうだが、私の持っているこのディスクには原文のテキストやその英訳も掲載されていないので、実際にどんなことを歌っているのか今もって私は知らない。日本語訳があっても、かなり難解なはずである。
1964年のこの演奏は、ブーレーズ自身が指揮をしているが、アンサンブル・アンテルコンタンポラン(Ensemble InterContemporain)の名前はまだ登場していない。このアンサンブルが創設されたのは、この演奏の12年後の1976年である。
ブーレーズは、作曲家としては、次々と矢継ぎ早に新作を発表することよりも、過去に発表した作品の改定を繰り返すことが多い。これは、作品は一旦完成されたらそれで終わりというものではなく、常に「再創造」され続けねばならないという彼のポリシーに基づくものである、と私は記憶している。
したがって、この録音で聴く「ル・マルトー・サン・メートル」は、歴史の一時点での記録であり、現在の「ル・マルトー・サン・メートル」とは別物のはずである。私は彼の新録音を聴いたことがないので何とも言えないが、おそらくそこには別の世界が拡がっているはずである。因みにこの1964年の録音の演奏時間は32分21秒である。ウィキペディア(Wikipedia)には、「演奏時間は約37分(ブーレーズ本人の指揮)」と書いてあるので、曲が短かったのか、テンポが速かったのか、どちらかである。
今の柔和なブーレーズを知る人には想像がつかないかも知れないが、この人はかつて「怒れるブーレーズ」と呼ばれ、その過激な発言で人々に恐れられていたそうである。この演奏にもその片鱗は窺え、ピンと張り詰めた緊張感と鋭角的な響きが全体を支配する。私にとっては、「ゲンダイオンガク」のお手本のような作品のひとつである。44年後の今聴いても、実に新鮮で強烈な印象を与える。
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2008-10-20 20:10
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