ニックネーム:とおるちゃん
性別:男
年齢:50+?才
都道府県:兵庫県
この本はスゴイ
2012年01月07日(土)
 ハーバード大学サンデル教授の白熱教室がNHK教育でTV放送されるなど、アメリカの教育制度のあり方に関心が高まっているようだ。  私も、職業柄、自分の専門分野については、アメリカの大学で利用されている教科書を買って自分の授業の参考にしたり、大学院の授業で使ったりしている。アメリカの教科書を使ってみて気づくことは(専門分野によっても違うのだろうが)、月並みだが、日本の教科書の圧倒的な「つまらなさ」だ。サミュエルソンの「経済学」やファインマンの「物理学」を例に挙げるまでもなく、アメリカの大学の教科書には、専門外の人間が読んでも面白いと感じるストーリー性がある。これに対して、日本の教科書は、知識を効率的に伝えることを最大の目標とし、薄いほど良い教科書とされているのか、読むことを想定した記述とはなっていない。読んで面白いとか、わくわくすることがない(この辺りの事情は、ファインマンが「ご冗談でしょう、ファインマンさん」の中で、ブラジルにおける物理学の教育について書いているところが参考になる)。もっとも、最近では、徐々にではあるが、読むことを想定した教科書も出版されるようにはなっているが...。

 さて、本題の上記の本(ムラー著・二階堂訳「サイエンス入門T」)である。本書の帯には「WEBで公開されるや世界中から称賛の声が寄せられたカリフォルニア大学の人気講義をベースにして書かれた、科学的な判断に必須の知識を厳選・解説した本」「世界87カ国の人々が絶賛」との謳い文句があるが、嘘ではなかった(因みに、本書の内容をより一般向けに書いた本として、下記の2冊がある)。文系の私が読んでも面白い。好奇心を刺激し、引きつけられて、一気に読める。私の高校生時代にこの本が出ていたら、おそらく理系に進んでいただろうな。大学の教科書と言っても一般教養の教科書だから、高校生でも読める。こういう本を高校の物理の副読本にすれば、無味乾燥な教科書の内容が、少しは面白く感じられるのではないかな。中学校の教科書に放射線の記述が復活したようだが、そんなことよりも(どれだけの中学生が放射線を理解できるのだろう)、高校生に、副読本として、本書の第4講「原子核と放射能」と第5講「連鎖反応と原子炉と原子爆弾」を読ませた方が、よっぽど教育になるのに(文科省って、本当にどうしようもないお役所ですね)。  例えば、本書のこんな記述。年間被曝線量30ミリシーベルトの立入禁止区域に10年間居住すると、「過剰発ガン率はおよそ30/2500=1.2パーセントです。つまり…ガンで死ぬ確率は、約20パーセントから21パーセントに増えます。この地域の立入禁止措置は、続けたほうがいいのでしょうか。リスク増加は大きくないような気がします。しかし、この地域に100万人が移住したと仮定して下さい。…1万人の人が死ぬということなのです!」今回の福島第1原発事故で、このような説明が政府なり東電なりから、されただろうか(この数字は、線形仮説に従った場合の話で、そもそも線形仮説が妥当するのか専門家でも意見が割れているところではあるが。だから仮説なのだが)?  そのほかにも、朝が夕方より静かに感じられるのは何故か(音の性質)、それがUFO疑惑で有名なロズウェル事件と関係していること、放送がない時にラジオや昔のテレビはザーッという雑音がしたり、画面が砂の嵐になるのは何故か(熱とは何か)、原子力潜水艦と蒸気機関車との共通性、などなど興味の尽きない話題で満載。  著者ははしがきで、「本書は、たんなる素人向けのやさしい科学解説書ではありません。有能な世界のリーダーになるために必要な物理学を教える教科書です」と説明し、「わたしの仕事は、学生たちの知識への渇望を満たし、学生たちが二度と物理学に対する苦手意識に押しつぶされることがないようにすることです。大学に学びにやってくる人たちにとって、いちばんの幸せは、自分の知識や能力が向上するのを感じることなのです」と書く。ウ〜ン、重い響きを持った言葉だ。

2012年1月7日 | 記事へ | ガジェット / 教養 |